本研究の目的は,高齢者の嚥下障害に関するリスクを一次スクリーニング検査として家族が評価する他者評価尺度を開発すること,さらにその尺度とフードテストを用いたスクリーニングするシステムを検討することであった.本研究は,愛知県立看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施された.高齢者2528名とその家族に対して,一次スクリーニング検査として自己評価尺度と他者評価尺度を各々調査した,366名の家族から有効回答が得られ,そのうち高齢者と家族が対となった有効回答は293であった.また,家族による他者評価がなされ,協力が得られた高齢者50名に対し,フードテスト及び至適基準とした嚥下造影検査を実施し,以下の結果を得た.
1.他者評価尺度は12項目が選定され,因子分析により,第 1 因子:準備・口腔・咽頭期の嚥下障害,第 2 因子:誤嚥が抽出され,構成概念妥当性が確認された.
2.他者評価尺度の信頼性は,尺度全体ではCronbach's α係数は0.89であった.さらに,家族と高齢者の評価の相関係数はr=O.60~O.79であり信頼性が確認された.
3.嚥下造影検査を至適基準とし,他者評価尺度の合計得点のcut-off pointを 3点とすると,敏感度は 58.3%,特異度は 50.0%であった.
4.他者評価尺度,フードテストの結果と性別,嚥下に影響する疾患・薬物を独立変数とし,嚥下造影検査の結果を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った.その結果,他者評価尺度,フードテスト,性別,嚥下に影響する薬物は,嚥下造影検査による嚥下障害リスク有無の判定を78.0%予測でき,自己評価尺度と同様に高齢者の嚥下障害リスクをスクリーニングするシステムになる可能性が示唆された.