日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
10 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総説
  • 板橋 繁
    2006 年10 巻3 号 p. 193-206
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー
  • 小野 高裕, 堀 一浩, 岩田 久之, 田峰 謙一, 吉牟田 陽子, 野首 孝祠
    2006 年10 巻3 号 p. 207-219
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    舌は咀嚼・嚥下の全過程において重要なはたらきをしているにもかかわらず,その機能評価が非常に難しい器官である.これまで,舌の運動については,主として開口時の可動性に対する肉眼的評価,ビデオ嚥下造影法による画像評価,口腔内に挿入したプローブに対する押し付け圧の評価などが行われてきたが,生理的な咀嚼・嚥下における舌運動を定量的に評価するには至っていなかった.一方,1990年頃より,圧力センサを組み込んだ口蓋床を上顎に装着し,硬口蓋部における舌の接触圧(舌圧)を計測する試みが行われるようになった.

    本稿では,まず著者らが行ってきた口蓋床型装置による舌圧測定法について紹介し,それを用いて明らかとなった若年健常者における水嚥下時の硬口蓋各部における舌圧発現パターンについて解説する.次に,グミゼリー咀嚼時の咀嚼サイクルごとの舌圧発現様相と咀嚼の進行に伴う舌圧の大きさと発現時間の変化について示し,食塊の形成と送り込みへの関与について考察する.さらに,こうした知見をもとに,舌圧を指標とした嚥下機能定量評価法の臨床応用を目的として,現在開発中の舌圧センサシートについて,その特徴,脳血管障害患者,口腔中咽頭癌患者の嚥下障害に対する診断,治療,リハビリテーションにおける有用性について報告する.

原著
  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 万歳 登茂子, 北池 正
    2006 年10 巻3 号 p. 220-230
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,高齢者の嚥下障害に関するリスクを一次スクリーニング検査として家族が評価する他者評価尺度を開発すること,さらにその尺度とフードテストを用いたスクリーニングするシステムを検討することであった.本研究は,愛知県立看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施された.高齢者2528名とその家族に対して,一次スクリーニング検査として自己評価尺度と他者評価尺度を各々調査した,366名の家族から有効回答が得られ,そのうち高齢者と家族が対となった有効回答は293であった.また,家族による他者評価がなされ,協力が得られた高齢者50名に対し,フードテスト及び至適基準とした嚥下造影検査を実施し,以下の結果を得た.

    1.他者評価尺度は12項目が選定され,因子分析により,第 1 因子:準備・口腔・咽頭期の嚥下障害,第 2 因子:誤嚥が抽出され,構成概念妥当性が確認された.

    2.他者評価尺度の信頼性は,尺度全体ではCronbach's α係数は0.89であった.さらに,家族と高齢者の評価の相関係数はr=O.60~O.79であり信頼性が確認された.

    3.嚥下造影検査を至適基準とし,他者評価尺度の合計得点のcut-off pointを 3点とすると,敏感度は 58.3%,特異度は 50.0%であった.

    4.他者評価尺度,フードテストの結果と性別,嚥下に影響する疾患・薬物を独立変数とし,嚥下造影検査の結果を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った.その結果,他者評価尺度,フードテスト,性別,嚥下に影響する薬物は,嚥下造影検査による嚥下障害リスク有無の判定を78.0%予測でき,自己評価尺度と同様に高齢者の嚥下障害リスクをスクリーニングするシステムになる可能性が示唆された.

  • ― 評価への嚥下閾値の影響 ―
    小城 明子, 柳沢 幸江, 植松 宏
    2006 年10 巻3 号 p. 231-238
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    咀嚼回数による摂食能力評価方法を確立するために,適切な試料の検討と併せて,評価への嚥下閾値の影響を明らかにすることを目的に実施した.

    対象者は,20歳代の28名(男13,女15)および70歳以上の地域高齢者26名(男15,女11)とし,食品試料には,一般食品の中から物性が異なる食品として,乾あんず,食パン.煮ごぼう,鶏肉,かまぼこ,マッシュルーム水煮,あられ,茄でほうれん草,ぶり照焼の9食品を選択した.各対象者の口腔機能(咬合接触面積,最大咬合圧,咬合力,第1大臼歯咬合力)を測定し,各試料の自由咀嚼時の嚥下までの咀嚼回数をカウントした.また,嚥下直前の食塊を回収し.食塊粒度分布,食塊物性(かたさ,凝集性,付着性,復元性),食塊水分含有率を得た.咀嚼回数を目的変数に,口腔機能,食塊粒度分布,食塊物性,食塊水分含有率の各データを説明変数に,重回帰分析(ステップワイズ法)にて変数抽出を行い,回帰式を得た.

    咀嚼回数を説明する回帰式が得られたのは,煮ごぼうと茄でほうれん草であった.対象者の固有値である口腔機能は,煮ごぼうでは咬合接触面積や最大咬合圧が,茄でほうれん草では第一大臼歯位置における咬合力が咀嚼回数に関与しており,これらの値が大きいほど咀嚼回数が少なくなると考えられた.しかし,粒度分布や凝集性はより強く影響しており,それらの変数は咀嚼回数との間に相関関係が認められた.したがって,個人の嚥下閾値になるまで咀嚼されていると考えられた.

    咀嚼回数から摂食能力を評価する方法として,煮ごぼうと茄でほうれん草の2試料で可能性が見出されたが,粒度や物性における嚥下閾値の影響を強く受けていることが明らかとなった.したがって,単純に,これらの試料における咀嚼回数から摂食能力を評価することはできず,個人の嚥下閾値を考慮する必要があることがわかった.

  • 坂井 真奈美, 江頭 文江, 金谷 節子, 栢下 淳
    2006 年10 巻3 号 p. 239-248
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    摂食・嚥下障害者は,血清アルブミン濃度が障害のない人に比べ0.81g/dl 低く,栄養状態が悪いことが知られている1).この原因としては,個々の摂食・嚥下障害者に対しての栄養管理が不十分であることが示唆される.これは,経口摂取を行う場合にはどのような食品物性のものがよいのか判断が難しいことも一因と考えられる.現在,摂食・嚥下障害者のための食事基準としては,主にかたさにより評価されている2)が,食品の物性としては,かたさ以外に,まとまりやすさを示す凝集性やくっつきやすさを示す付着性も重要な因子であることはよく知られている3-5).そこで,今回の研究では,摂食・嚥下障害者に対し段階的な食事基準を有し,嚥下食に関して実績のある聖隷三方原病院で提供されている食事6,7)について物性測定を行った,今回,5段階に分かれている食事基準のうち均一な食品物性として提供されている3段階について物性を測定した,測定方法は,厚生省(現厚生労働省)の「そしゃく・嚥下困難者用食品の許可基準」に示された試験方法を参考にした.すなわち,直径20mmのプランジャーで,クリアランスを5mm,圧縮速度1mm/secで定速2回圧縮を行ない,得られたテクスチャー曲線より,かたさ,凝集性,付着性を算定した.その結果,かたさは,段階1では2~7×103N/m2,段階2では1~10×103N/m2,段階3では1.2×104N/m2以下に分布していた.凝集性については,段階1は0.2~0.5,段階2および段階3では0.2~0.7に分布していた.付着性については,段階1は2×102J/m2以下,段階2は2×102J/m3以下または凝集性が0.4付近にあれば,5×102J/m3まで分布,段階3は3×102J/m3以下または凝集性が0.4付近にあれば,8×102J/m3まで分布していることがわかった.

  • 谷口 洋, 藤島 一郎, 大野 友久, 高橋 博達, 大野 綾, 黒田 百合
    2006 年10 巻3 号 p. 249-256
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    【目的】ワレンベルグ症候群(WS)による嚥下障害はしばしば左右差を認める.本研究ではWSにおける食塊の下咽頭への送り込み側と食道入口部の通過側について検討した.

    【対象と方法】対象は嚥下造影検査(VF)を施行したWSの24症例で,24症例はVFを平均2.0回おこなっており,各検査を独立した47施行として後方視的に検討した.頸部正中位での嚥下を正面像で観察し,下咽頭(梨状窩のレベル)への食塊の送り込みを左右差なし,患側優位,健側優位に,食道入口部の通過を左右差なし,患側優位,健側優位,不通過に分類した.下咽頭へ患側優位に送り込まれた例では,健側に食塊を誘導する目的で健側を下に側臥位をとるか(一側嚥下)患側へ頸部回旋しての嚥下(嚥下前横向き嚥下)をおこない咽頭通過の改善を評価した.

    【結果】下咽頭への送り込み側は左右差なし15施行(32%),患側優位24施行(51%),健側優位8施行(17%)であった.食道入口部の通過側は左右差なし6施行(13%),患側優位9施行(19%),健側優位16施行(34%),不通過16施行(34%)であった.食塊が患側優位に下咽頭へ送り込まれた15施行に一側嚥下か嚥下前横向き嚥下をおこない,12施行(80%)で食塊が健側の下咽頭へ誘導されることで咽頭通過の改善をみとめた.

    【考察】従来の報告と同様に食道入口部の通過は健側優位が多かったが,下咽頭への送り込みは患側優位が多く対照的な結果となった.これまでWSにおける食塊の咽頭への送り込み側の報告はない.患側の下咽頭に送り込まれやすい機序として,健側の口蓋筋群がより強く収縮して食塊が患側に偏筒して口峡を通過することや,咽頭収縮筋が健側でより強く収縮して食塊が患側に送り込まれることが推察された.WSではこれらのことを考慮して体位調節により下咽頭への送り込みをコントロールすることが時に重要であると思われた.

  • ― 離乳期におけるc-fosの発現変化 ―
    大岡 貴史, 弘中 祥司, 向井 美惠
    2006 年10 巻3 号 p. 257-267
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
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    【目的】哺乳類における摂食機能は,哺乳機能から咀嚼運動をはじめとした複雑な摂食・嚥下機能へと発達変化する.この発達段階においては,中枢神経系の発達および成熟がなされることが不可欠と考えられており,生後一定の期間は摂食・嚥下機能に関連する神経回路の形成が必要とされる.本研究では,吸畷から咀嚼機能を獲得する離乳期の食餌条件の違いによって,摂食に関連する中枢神経核の神経活動に変化が生じるかを検討することを目的とし,c-fos 遺伝子より産生されるFosタンパク(Fos)をマーカーとしたラット脳幹部における中枢神経核の免疫組織学的観察を行った.

    【方法】Sprague-Dawleyラットを生後15日目より①早期離乳群(固形飼料を摂取),②未離乳群(固形飼料は摂取させず,人工的に哺乳のみを継続),③対照群(母獣とともに飼育)の3群を設定して実験を行った (各群N=9). 生後19日(P19)および21日(P21)の時点で灌流固定,抜脳を行い,厚さ50μmの冠状断連続切片を作製した.その後,脳幹部の舌下神経核,孤束核,三叉神経脊髄路核中間亜核におけるFos免疫反応陽性(FI)細胞を計測した.

    【結果・考察】FI細胞は早期離乳群で最も多く認められ,P19では舌下神経核,孤束核において他の群との間に有意差を認めた,一方,P21の孤束核における有意差はみられず,三叉神経核において早期離乳群>未離乳群>対照群の順にFI細胞が多く発現していた.これらより,離乳期の食餌の差異によって摂食・嚥下に関連する中枢神経核における神経活動および遺伝子発現が変化することが推察された.

    【結論】離乳期においてラットに与える食餌が変化することで,中枢神経核における神経活動および遺伝子発現に変化が生じる可能性が示唆された.

臨床報告
  • ― 頚部回旋および体幹傾斜を考慮した姿位設定 ―
    田上 裕記, 三橋 俊高, 野本 惠司, 小久保 晃, 太田 清人
    2006 年10 巻3 号 p. 268-273
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    頚部回旋および体幹傾斜角度の違いにおける嚥下活動の変化について検討した.基本姿位は,セミファーラー位60°とし,頚部回旋および体幹傾斜角度の相互関係を考慮し4つの姿勢条件を設定した.①姿位A:頚部正中位,体幹正中位,②姿位B:頚部30°回旋位,体幹正中位,③姿位C:頚部正中位,体幹30°傾斜位,④姿位D:頚部正中位,体幹15°傾斜位.対象は,健常群として嚥下機能に問題のない健常成人10名,疾患群として脳血管障害者13名とした.健常群では,常温30mlの水を随意嚥下させ,それぞれのピーク時の筋活動量を測定した.測定は日本光電社製MEB-5504を使用し,舌骨上筋群を双極誘導で採取した.一方,疾患群では,4つの姿勢条件で,それぞれ5分間安静の後,水のみテスト,反復唾液嚥下テスト(以下RSST)を施行した.水のみテストはプロフィール,RSSTは判定回数をそれぞれ各姿位間で比較検討した.健常群における筋活動量の変化についてみると,姿位Bの値は,姿位Aの値に比し有意な高値を示し,姿位Cの値は,姿位Bの値に比し有意な低値を示した.疾患群における水のみテストのプロフィールについてみると,姿位Bでは,姿位A,C,Dに比べ正常群が有意に少なかった.RSSTの判定回数の比較では,姿位Aに比べ姿位Bで低値を示し,姿位C,姿位Dでは,姿位Aとほぼ同じであった.以上の結果より,セミファーラー位60°の姿位において,頚部および体幹の相互関係を考慮した設定をすることの重要性が示唆された.すなわち,摂食・嚥下障害者に対し,頚部のみを回旋するのではなく,頚部は正中位に保持した上で,体幹傾斜位にしたほうが有効であると考えられた.

  • 稲本 陽子, 小口 和代, 才藤 栄一
    2006 年10 巻3 号 p. 274-281
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    【目的】気管切開患者の摂食・嚥下障害について,療養病院における嚥下訓練対象者のうち11症例の嚥下訓練結果から検討する.

    【対象と方法】6ヶ月間に言語聴覚士が嚥下訓練を施行した摂食・嚥下障害入院患者49名のうち,気管切開患者11名(平均年齢70歳)について2回の調査を行った.調査項目は,意識レベル,MMSE,嚥下造影検査(以下VF)による誤嚥の有無,訓練方法,臨床的病態重症度(Dyspahgia Severity Scale以下DSS),摂食状態,カニューレの種類,調査期間中の合併症の有無で,嚥下カンファレンスシートおよび当院入院カルテから収集した.

    【結果】全例に施行したVF所見では,誤嚥有り8名 (73%),誤嚥無し3名 (27%) で,誤嚥有りの8名中全例に不顕性誤嚥を認めた.VF結果および臨床所見にて直接訓練を継続した例が3名,直接訓練を開始した例は2名,直接訓練を中止し間接訓練のみに変更した例は2名,間接訓練を継続した例は4名で,全対象者に対し,週2回から5回,嚥下訓練を施行した.DSSは,第1回調査時,全例誤嚥有り(DSS 4以下)のレベルであった.DSSの変化は,改善1名,不変8名,悪化2名で,第2回調査時,改善した1名を除き,10名(91%)は誤嚥有りのレベルだった.栄養摂取方法の変化は,1名が経管のみから経口のみへ改善を認め,10名は経管のみで不変であった,調査期間中,カニューレが不要となった例は1名だった.合併症は,誤嚥性肺炎を3名(27%)に認めた.

    【考察】療養病院転院後も気管カニューレ装用が必要になる例では,カニューレが不要となることは少なかった.VFで誤嚥を認めた全例に不顕性誤嚥を認めたことや,誤嚥性肺炎の合併率が高かったことから,気管切開患者に対してはVFのみならず,臨床所見,日々の全身状態など総合的な嚥下機能評価が必要であることが確認できた.また長期に訓練を行っても改善は不良であった.嚥下訓練効果の程度,合併症の予防という視点から,今後他職種との連携をさらに発展させていく必要がある.

短報
  • ― チューブのガイドワイヤー交換法 ―
    藤島 一郎, 藤森 まり子
    2006 年10 巻3 号 p. 282-287
    発行日: 2006/12/31
    公開日: 2021/01/10
    ジャーナル フリー

    経鼻栄養チューブをガイドワイヤーを用いて交換する方法を考案し実際の症例で実施した.【方法,対象】チューブ交換時にガイドワイヤーを用いて,ガイドワイヤーのみを残してチューブを抜き去り,その後ガイドワイヤーに沿って新しいチューブを挿入するという方法で初回経鼻栄養チューブの挿入が困難で,交換時に再挿入困難が予想される患者,およびすでに何度か交換時に再挿入困難を経験している患者13人を対象とした.【結果】3年間で13例,延べ63回実施し,1度だけガイドワイヤーがチューブと一緒に抜けてしまったが,それ以外は全例トラブルなく交換可能であった.所用時間は準備からチューブの固定までの全行程10分以内であった.また,長期継続者について内視鏡で鼻腔と咽頭を確認し,潰瘍形成など粘膜病変の有無を確認し異常所見は見られなかった.臨床上問題となる痛み,出血,潰瘍形成,感染などのトラブルはなかった.【考察】本法は経鼻栄養チューブの交換に使用でき,特にチューブの挿入困難例に対して有用な方法と思われた.

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