咀嚼回数による摂食能力評価方法を確立するために,適切な試料の検討と併せて,評価への嚥下閾値の影響を明らかにすることを目的に実施した.
対象者は,20歳代の28名(男13,女15)および70歳以上の地域高齢者26名(男15,女11)とし,食品試料には,一般食品の中から物性が異なる食品として,乾あんず,食パン.煮ごぼう,鶏肉,かまぼこ,マッシュルーム水煮,あられ,茄でほうれん草,ぶり照焼の9食品を選択した.各対象者の口腔機能(咬合接触面積,最大咬合圧,咬合力,第1大臼歯咬合力)を測定し,各試料の自由咀嚼時の嚥下までの咀嚼回数をカウントした.また,嚥下直前の食塊を回収し.食塊粒度分布,食塊物性(かたさ,凝集性,付着性,復元性),食塊水分含有率を得た.咀嚼回数を目的変数に,口腔機能,食塊粒度分布,食塊物性,食塊水分含有率の各データを説明変数に,重回帰分析(ステップワイズ法)にて変数抽出を行い,回帰式を得た.
咀嚼回数を説明する回帰式が得られたのは,煮ごぼうと茄でほうれん草であった.対象者の固有値である口腔機能は,煮ごぼうでは咬合接触面積や最大咬合圧が,茄でほうれん草では第一大臼歯位置における咬合力が咀嚼回数に関与しており,これらの値が大きいほど咀嚼回数が少なくなると考えられた.しかし,粒度分布や凝集性はより強く影響しており,それらの変数は咀嚼回数との間に相関関係が認められた.したがって,個人の嚥下閾値になるまで咀嚼されていると考えられた.
咀嚼回数から摂食能力を評価する方法として,煮ごぼうと茄でほうれん草の2試料で可能性が見出されたが,粒度や物性における嚥下閾値の影響を強く受けていることが明らかとなった.したがって,単純に,これらの試料における咀嚼回数から摂食能力を評価することはできず,個人の嚥下閾値を考慮する必要があることがわかった.