【目的】気管切開患者の摂食・嚥下障害について,療養病院における嚥下訓練対象者のうち11症例の嚥下訓練結果から検討する.
【対象と方法】6ヶ月間に言語聴覚士が嚥下訓練を施行した摂食・嚥下障害入院患者49名のうち,気管切開患者11名(平均年齢70歳)について2回の調査を行った.調査項目は,意識レベル,MMSE,嚥下造影検査(以下VF)による誤嚥の有無,訓練方法,臨床的病態重症度(Dyspahgia Severity Scale以下DSS),摂食状態,カニューレの種類,調査期間中の合併症の有無で,嚥下カンファレンスシートおよび当院入院カルテから収集した.
【結果】全例に施行したVF所見では,誤嚥有り8名 (73%),誤嚥無し3名 (27%) で,誤嚥有りの8名中全例に不顕性誤嚥を認めた.VF結果および臨床所見にて直接訓練を継続した例が3名,直接訓練を開始した例は2名,直接訓練を中止し間接訓練のみに変更した例は2名,間接訓練を継続した例は4名で,全対象者に対し,週2回から5回,嚥下訓練を施行した.DSSは,第1回調査時,全例誤嚥有り(DSS 4以下)のレベルであった.DSSの変化は,改善1名,不変8名,悪化2名で,第2回調査時,改善した1名を除き,10名(91%)は誤嚥有りのレベルだった.栄養摂取方法の変化は,1名が経管のみから経口のみへ改善を認め,10名は経管のみで不変であった,調査期間中,カニューレが不要となった例は1名だった.合併症は,誤嚥性肺炎を3名(27%)に認めた.
【考察】療養病院転院後も気管カニューレ装用が必要になる例では,カニューレが不要となることは少なかった.VFで誤嚥を認めた全例に不顕性誤嚥を認めたことや,誤嚥性肺炎の合併率が高かったことから,気管切開患者に対してはVFのみならず,臨床所見,日々の全身状態など総合的な嚥下機能評価が必要であることが確認できた.また長期に訓練を行っても改善は不良であった.嚥下訓練効果の程度,合併症の予防という視点から,今後他職種との連携をさらに発展させていく必要がある.