日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
咽頭への送り込み障害に対して軟口蓋挙上機能を有する補綴装置が有効であった進行性核上性麻痺の一症例
高橋 素彦廣田 誠東海林 志保美
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2007 年 11 巻 1 号 p. 67-73

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抄録

症例は74歳男性,進行性核上性麻痺の患者である.誤嚥性肺炎後に経口摂取困難と判断され,経管栄養で管理されていたが,経口摂取に対する強い希望があり嚥下機能の評価を実施することになった.嚥下造影検査では舌による有効な送り込み運動は認められず,軟口蓋と舌根が接触し通過障害をきたしていた.このため,リクライニング位による重力を利用した咽頭への送り込みも困難であった.咽頭期には嚥下反射の誘発の遅延以外は異常所見を認めなかった.本症例の送り込み障害には,軟口蓋機能障害が関与していると考え,軟口蓋挙上機能を有する補綴装置を作成した.軟口蓋挙上は,鼻咽腔閉鎖ではなく軟口蓋と舌根間に食塊を通過させる空間を形成することを目的とした.また,無歯顎者であり,装置の吸着による維持が困難であったため,人工歯を再現した.これにより,開口時には装置が脱落するものの,下顎を挙上し閉口することにより下顎顎堤が人工歯を介して装置全体を押し上げ,軟口蓋を挙上させる形状とした.本装置と30度リクライニング位を組み合わせることによって,重力を利用した送り込みが可能となり,スライス状のゼラチンゼリーを摂取可能となった.嚥下造影の所見および自覚症状では装着に伴う嚥下運動への悪影響は認められなかった.軟口蓋挙上装置と比較して挙上範囲が小さいためと考えられた.本装置の適応は,軟口蓋と舌根間が閉鎖することにより送り込み困難であるが,咽頭期の機能が比較的保たれている症例である.進行性核品性麻痺患者では,軟口蓋の協調障害による送り込み障害が特徴的であると従来から報告されており,本装置の適応を有する症例が存在する可能性があると考えた.

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© 2007 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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