【目的】摂食・嚥下障害患者では気道分泌物貯留のためにしばしば排痰法を中心とした呼吸理学療法が必要となる.しかし,口腔内や上気道の強い乾燥状態を合併すると,十分な効果が得られない場合がある.そこで,その対策として口腔ケアの併用が有効ではないかと考え,呼吸理学療法前の口腔ケアの実施が,分泌物除去に及ぼす影響について検討した.
【対象と方法】平成16年1月から平成17年2月までの期間,当院入院中の患者で口腔ケアと呼吸理学療法を実施中の誤嚥性肺炎患者25例(男性23例,女性2例,平均年齢81.4歳)を対象とした.呼吸理学療法は,口腔ケア直後に実施する場合と単独で実施する場合の2つの条件で連続2日以内にランダムに適用した.口腔ケアは同一の歯科衛生士が行い,呼吸理学療法も同一の理学療法士が行うこととし,最終的に吸引によって分泌物を除去した.上記2種類の条件による吸引分泌物重量とその性状,100mm visual analog scale(VAS)による吸引操作の行い易さを評価し,比較検討した.また口腔内は,口腔乾燥の程度を評価した.
【結果と考察】吸引分泌物重量ならびに吸引操作の行い易さを評価したVASについて検討したところ,口腔ケア実施時で有意な増加,改善が認められた(p<0.01).また口腔乾燥状態が重度の場合,口腔ケア実施時で吸引分泌物重量が有意に増加し,吸引操作の行い易さも有意に改善した.さらに疾の性状で分けて検討すると,膿性痰の場合,口腔ケア実施時で吸引分泌物重量が有意に増加し,吸引操作の行い易さも有意に改善した.口腔ケアによって口腔内さらには咽頭,上気道の湿潤化が得られ,分泌物の移動が容易になった結果と推察された.よって,口腔乾燥が重度の場合で膿性痰の場合,呼吸理学療法は直前に口腔ケアを実施することでその効果を高めることができると示唆された.