【目的】直接的嚥下訓練を開始する場合,一般的に水様物より有形態の方が多く使用されている.またゼリーを用いて訓練を行なう場合にも,一部ではスライス状にして食べることが推奨されている.我々は口腔期障害例において,より適切な食物形態を決定するために,口腔から咽頭への送り込みの違いについて,有形態であるゼラチンゼリーと水様物を用いて検討した。
【対象と方法】1)2005年1月から12月までの間にビデオ嚥下造影検査(VF)を行なった141例(男性77例,女性64例,平均年齢74歳)を対象とした.食物が口腔に入ってから咽頭に達するまでの時問をVF画像から測定し,解析した.検査時の姿勢は水平からの角度を①30-45度,②60-90度に分けて検討した.模擬食品にはゼラチンゼリーとトロミ付き水(粘度約750mPa・s)を採用した。2)口腔期障害を主症状とする6症例を対象としスライス状のゼリーとクラッシュしたゼリーの送り込みついて,ゼリーが口腔に入ってから口峡を越えるまでの時間を測定し,その違いを検討した.
【結果】1)咽頭への送り込み時間はゼリー7.7±152秒,水3.8±8.8秒であり,水の送り込みはゼリーよりも速やかであった(n=141,p<0.01).また姿勢の違いによる検討では30-45度(n=58)に角度をつけた場合ではゼリー86±17.4秒,水3.6±6.8秒であり,一方60-90度(n=83)に角度をつけた場合の検討ではゼリー7.0±13.5秒,水3.9±10.0秒であった.姿勢の違いに関わらず水はゼリーよりも速やかに咽頭に送り込まれた(p<0.05).2)口腔期障害例(n=6)における送り込みの検討ではスライスゼリー22.5±8.0秒であり,一方クラッシュゼリーでは15.5±8.5秒であった。スライスゼリーよりもクラッシュゼリーの方が口腔から咽頭へ速やかに送り込まれた(p<0.05).
【考察】口腔から咽頭への送り込みは,①ゼリーよりもトロミ付き水の方が速く,②口腔期障害を主症状とする嚥下障害例においてはスライスゼリーよりもクラッシュゼリーの方が速いことが分かった.以上から口腔期のみに障害を呈する患者に対し直接的嚥下訓練行なう場合,有形態よりも無形態に近い食物を用いる方が望ましいのではないかと考えられた.
抄録全体を表示