2008 年 12 巻 1 号 p. 40-48
【目的】本研究は,我々の勤務する大学の医学部附属病院にて食道癌治療を行った症例を対象として,術後肺炎の予防を目的に当院にて開始した口腔ケアの効用と肺炎危険因子を検討することを目的とした.
【対象及び方法】対象は当院にて,食道亜全摘出術を施行した53例(男性49例,女性4例,平均年齢63±6.7歳)とした.このうち術後肺炎を生じたのは9例(17.0%)であった.解析のため,全症例を二つのカテゴリーに分類した.すなわち,周術期に口腔ケアを行った群(OC(+)群,n=29)と行わなかった群(OC(-)群,n=24)及び術後肺炎を認めた群(PP(+)群,n=9)と認めなかった群(PP(-)群,n=44)に全症例を分類し,これら群間において,術前,術中,術後因子を後方視的に比較検討した.
【結果】OC(+)群において,術後肺炎は17日目以降認めなかったのに対して,OC(-)群においてはそれ以降も肺炎による発熱を認めた,三領域郭清手術を施行された症例に限定した場合,統計学的有意差を認めないものの,口腔ケアは肺炎の頻度を減少させ,経口摂取中断期間,術後在院日数を短縮させる傾向が見られた.いかなる因子も単一で食道癌術後肺炎を予測することのできる危険因子とはなり得なかった.
【結語】今回の結果より,食道癌術後肺炎発症には複数の因子が関与している可能性が示唆され,口腔ケアはそれを予防する効果があることが示された.ゆえに周術期食道癌治療は,患者を全人的な視野から,協調してケアができるチーム(チームアプローチ)によって行われるべきであり,それらには口腔ケアを行うスタッフも含まれるべきであると考えられた.