日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
12 巻, 1 号
Environmental Control in Biology
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • Rebecca Z. GERMAN, Koichiro MATSUO, Devon N. STUART
    2008 年 12 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
    ジャーナル フリー
  • 西尾 正輝
    2008 年 12 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
    ジャーナル フリー

    アメリカを中心とする海外における過去約10年間における小児の摂食・嚥下障害の国際的進展状況を文献学的に通観し,その動向を概説した.

    食事の問題は小児全体の25~45%に認められ,発達障害児の33~80%に問題があると報告されている.医学の技術的進展は結果として,嚥下障害患児数を増大させていると推察されている.

    小児の嚥下障害において認められる典型的な異常所見は,口腔の運動機能の異常,拒食,偏食,食塊の送り込み困難,誤嚥,胃食道逆流症など多様である.口腔の運動機能の異常は脳性麻痺児やダウン症児で特に高率でみられるのに対して,自閉症スペクトラム児ではこうした問題はみられず,知覚や原因不明の胃腸の問題に起因する偏食や拒食を呈する傾向にある.

    評価手技では,各種の質問紙法や食事場面の客観的評価法が開発され,精密検査としては,嚥下造影検査(VF)と嚥下内視鏡検査(FEES)が普及し,諸種の検査マニュアルやガイドラインが示されている.また,多数の総合的な評価フォームが提唱されている.

    治療手技では,飲食物の形態の調節,適切な栄養法の選択手技,食事環境の調整,運動機能や感覚機能の改善訓練,適切な人工乳首と哺乳瓶の選択,姿勢の調整法,頬・下顎の支持法,ペーシング,スプーン・コップ・ストローの使用訓練,咀嚼訓練,食事計画,コンティンジェンシー・マネージメント,シェイピング,GERDに対する胃酸分泌抑制剤の使用,外科的治療などの報告が蓄積されている.また新生児集中治療室における摂食・嚥下障害児のリハビリテーションも積極的に取り組まれる傾向にある.

原著
  • 松尾 浩一郎, 目谷 浩通, Keith A. MAYS, Jeffrrey B. PALMER
    2008 年 12 巻 1 号 p. 20-30
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】今回われわれは,固形物の咀嚼,嚥下中の軟口蓋と下顎運動の時間的・空間的な連動性を明らかにするため,両者の運動を時系列分析を用いて検討した.

    【対象と方法】摂食・嚥下障害のない健常若年成人15名(平均25歳)を対象とした.細いゴムチューブの先に接着したX線不透過性のマーカーを経鼻的に挿入し軟口蓋上に設置した.また,基準平面の設定ならびに下顎運動の記録のため上下顎にもマーカーを接着した.被験者に6gのバナナ,チキンスプレッド,クッキーを摂取させ,嚥下造影検査を行いビデオに記録した.VF上での軟口蓋と下顎の位置をフレームごとに計測し,XY座標へと変換した.摂食の一連の流れを咀嚼期,中咽頭食塊集積期ならびに嚥下期の3つの時期に分け,各時期の軟口蓋運動の最挙上点を同定し,検査食品,各時期での違いを比較した.また,軟口蓋と下顎運動の時間的連動性を,交差相関関数を用いて解析した.

    【結果】咀嚼期,中咽頭食塊集積期では下顎サイクルの約50%に,開口とともに軟口蓋が挙上するリズミカルな運動が確認された.軟口蓋の挙上頻度は被験者間で有意な差がみられたが (P<0.001),各時期や検査食品での差はみられなかった.軟口蓋挙上の最挙上点は咀嚼,嚥下の時期が進むにつれて高くなり,またクッキーで有意に高くなっていた (P<0.05).軟口蓋と下顎運動は,咀嚼期,中咽頭食塊集積期では軟口蓋が下顎運動に若干先行する形で負の相関を示した (平均R, -0.41±0.24と-0.42±0.18).一方,嚥下期では,軟口蓋が下顎運動に0.13 s 遅れたところで,最大の正の相関が得られた (R,0.49±0.30).

    【結論】今回 ,交差相関分析を用いて解析を行った結果,咀嚼,嚥下中の軟口蓋の運動が下顎運動に時間的に連動していることが示された.軟口蓋と下顎運動の咀嚼期ならびに嚥下期での位相のずれは,軟口蓋が咀嚼期と嚥下期において,異なる機能を果たしている可能性が示唆された.

  • 山縣 誉志江, 栢下 淳
    2008 年 12 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
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    【目的】嚥下機能の評価方法として行われている嚥下造影検査(VF)は,その検査結果が実際に摂取できる食事形態の評価につながらない場合がある.これは検査食にバリウムを添加することで,本来の食品の物性が変化しているためと考えられる.このことから,規格化された検査食が必要である.本研究では,嚥下食に関して実績を有する聖隷三方原病院で提供されている段階的な食事のうち,重度の患者に提供される段階1(開始食),段階2(嚥下食Ⅰ),段階3(嚥下食Ⅱ)を検査食作製のモデルとし,検査食の規格化を試みた.いずれの段階も,ゼリー等の均一な物性の食品が分類されている.段階1から段階3へと段階が上がるにつれ,該当する食品物性の範囲が広がることから,各段階の物性の上限と下限に適する検査食の作製について検討した.

    【方法】50w/v%に希釈した液体バリウムに,市販のゲル化剤を用いてゼリーを作製した.ゲル化剤の添加量を変え,物性測定を行った.測定にはクリープメータを用い,かたさ・付着性・凝集性を算定した.

    【結果】作製したバリウムゼリーは温度依存性を示した.ゲル化剤の添加量を変化させてバリウムゼリーを作製した時,ゲル化剤濃度とかたさには高い正の相関が見られた.それぞれの段階に適した検査食のゲル化剤濃度は,段階1で0.95%及び1.60%,段階2で0.65%及び1.95%,段階3で0.50%及び2.20%であることが分かった.

    【結論】本研究で用いたバリウムゼリー作製方法により,段階的な嚥下食の各段階の物性に適した検査食を作製することができた.これを用いることで,検査食と日常的に摂取する食事の物性の整合性をはかることができる可能性が示唆された.

  • 足立 忠文, 三木 仁美, 松澤 恵梨子, 辻 洋史, 西野 仁, 齋藤 務, 加戸 聖美, 彭 英峰, 今本 治彦, 濱田 傑
    2008 年 12 巻 1 号 p. 40-48
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,我々の勤務する大学の医学部附属病院にて食道癌治療を行った症例を対象として,術後肺炎の予防を目的に当院にて開始した口腔ケアの効用と肺炎危険因子を検討することを目的とした.

    【対象及び方法】対象は当院にて,食道亜全摘出術を施行した53例(男性49例,女性4例,平均年齢63±6.7歳)とした.このうち術後肺炎を生じたのは9例(17.0%)であった.解析のため,全症例を二つのカテゴリーに分類した.すなわち,周術期に口腔ケアを行った群(OC(+)群,n=29)と行わなかった群(OC(-)群,n=24)及び術後肺炎を認めた群(PP(+)群,n=9)と認めなかった群(PP(-)群,n=44)に全症例を分類し,これら群間において,術前,術中,術後因子を後方視的に比較検討した.

    【結果】OC(+)群において,術後肺炎は17日目以降認めなかったのに対して,OC(-)群においてはそれ以降も肺炎による発熱を認めた,三領域郭清手術を施行された症例に限定した場合,統計学的有意差を認めないものの,口腔ケアは肺炎の頻度を減少させ,経口摂取中断期間,術後在院日数を短縮させる傾向が見られた.いかなる因子も単一で食道癌術後肺炎を予測することのできる危険因子とはなり得なかった.

    【結語】今回の結果より,食道癌術後肺炎発症には複数の因子が関与している可能性が示唆され,口腔ケアはそれを予防する効果があることが示された.ゆえに周術期食道癌治療は,患者を全人的な視野から,協調してケアができるチーム(チームアプローチ)によって行われるべきであり,それらには口腔ケアを行うスタッフも含まれるべきであると考えられた.

  • 西尾 正輝, 森下 博己, 飯野 登志子, 田中 康博
    2008 年 12 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
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    ほとんど温度に関わりなく即座にゼリー状に凝固させることが可能なゲル化剤を開発した.日本人にとって代表的な食品である粥,みそ汁,お茶を測定試料として物性評価(硬さ,凝集性,付着性)ならびに官能評価(おいしさ,べたつきやすさ,まとまりやすさ,残留性,飲み込みやすさ)によりそのテクスチャー特性について検討したところ,主に以下の結果を得た.

    1.粥を用いて異なる温度(55~30℃)でゼリーを作成・測定した.その結果,硬さ,凝集性,付着性における品温による差は乏しく,いずれの品温の粥ゼリーも妥当な物性を有した.官能評価では,いずれの品温においてもすべてのパラメーターで良好な結果を得た.

    2.液状の食品を用いて比較的高温(75℃)で調理したゼリーについて,温度の低下に伴うテクスチャーの変動性について検討した.その結果,50~20℃の温度範囲で硬さは若干変動したが厚生省の基準値を大きく下回り妥当な範囲内であり,凝集性と付着性は温度の影響をほとんど受けず安定していた.官能評価ではいずれの品温においてもすべてのパラメーターで良好な結果を得た.

    3.液状の食品を用いて比較的低温(10℃)で調理したゼリーについて,温度の上昇に伴うテクスチャーの変動性について検討した.その結果,10~30℃の温度範囲で硬さは品温により若干変動したが厚生省の基準値を大きく下回り妥当な範囲内であり,凝集性と付着性も温度の上昇に伴う変動幅は比較的小さくいずれの品温のゼリーも妥当な物性を有した.官能評価ではいずれの品温においてもすべてのパラメーターで比較的良好な結果を得た.

    以上から,本ゲル化剤は,粥ゼリーを異なる温度で調理した場合も,液状の食品を用いて調理したゼリーの温度が変動した場合も,妥当なテクスチャーを維持することが示唆されたといえる,本結果は嚥下障害患者が日常生活においてエネルギーや水分を摂取するにあたり本ゲル化剤の利便性と有用性を示唆するものである.

臨床報告
  • 小西 正訓, 坪田 大, 今井 良吉, 飯出 美緒, 酒井 奈美香, 伊東 民雄
    2008 年 12 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
    ジャーナル フリー

    症例は47歳男性.延髄血管芽腫再発に伴い,嚥下障碍,嗄声,申枢性低換気が増悪して当院脳神経外科入院,気管切開と腫瘍全摘術施行.その後気管孔を閉鎖したが,誤嚥性肺炎を起こし,再度気管切開を要した.しかし,肺炎は繰り返したため,嚥下造影を行なったところ,嚥下反射パターンの異常,咽頭蠕動の消失,食道入口部の開大不全などに起因する誤嚥を認め,かつ咳嗽反射が全く惹起されないことが分かった.リハビリを行うも改善せず,また咳嗽反射の消失もあり,気道と食道の分離以外に誤嚥を予防できないと考えられたため,喉頭摘出術およびボイスボタン留置術を行なった.術後経過は良好で,現在は全量通常の食事を経口摂食している.また,ボイスボタンによる代替発声が容易に可能であり,音声言語機能も良好に保存することができた.

    通常誤嚥防止手術では音声が保存されないが,今回の方法は,摂食による誤嚥の防止と音声の保存を両立できる利点がある.

  • 杉浦 淳子, 藤本 保志, 安藤 篤, 下田 伊津子, 中島 務
    2008 年 12 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2021/01/22
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    頭頸部腫瘍術後患者で,Shaker法やMendelsohn法などの喉頭挙上訓練が実施困難であった例に対し,座位で徒手的に抵抗負荷をかける筋力増強訓練を考案し,嚥下機能の改善を得られたので報告する.症例は頸部食道癌の62歳女性および甲状腺癌の56歳女性,根治術施行後,著明な気息性嗄声,頸部筋群の筋力低下および喉頭の可動域制限があり,仰臥位での頭部挙上は不可能であった.嚥下造影検査で喉頭挙上不良,挙上期型誤嚥,クリアランス低下を認めた.嚥下機能の改善と安全かつ効率的な経口摂取を目的に,間接訓練として頸部筋群の可動域拡大訓練,椅子座位での等張性および等尺性筋力増強訓練,リクライニング位での頭部挙上訓練,pushing exercise,直接訓練として代償嚥下法指導(super-supraglottic swallow,顎引き chin-down等)を実施した.この結果,両症例ともに気息性嗄声と声の持続がわずかながらも改善,訓練開始後28~53日で全量経口摂取可能となり,訓練後の嚥下造影検査では両症例ともに舌骨変位量の増加を認め,症例1は誤嚥がなくなったが症例2は若干の誤嚥が残存した.いずれの症例も頸部の筋力低下による喉頭挙上不良に声門閉鎖不全が合併したために気道防御がより重篤に障害された例だったが,積極的な筋力増強訓練を行った結果,頸部筋群の筋力増加と喉頭の可動性に改善を得て経口摂取可能となった.このことより,頭頸部腫瘍術後の筋力低下などによってShaker法など自動的な頭部挙上訓練が実施困難な喉頭挙上不良嚥下障害例に対しては,他動的な徒手的抵抗負荷をかけた筋力増強訓練が有効と考えられた.

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