日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下障害例における摂食時姿勢と食物形態の違いによる口腔通過時間の検討
―安全性および患者の自立度アップを目指して―
畑 裕香清水 隆雄藤岡 誠二
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2008 年 12 巻 2 号 p. 118-123

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抄録

【はじめに】口腔から咽頭への送り込みに時間を要する口腔期障害例に対し,上体を後方へ傾け食塊の咽頭への送り込みを容易にする方法が選択される場合がある.今回,我々は食物形態および摂食時姿勢の違いによって,食物の口腔通過時間に与える影響から,嚥下障害例における安全性およびADLを考慮した摂食訓練について検討した.

【対象と方法】2005年の1年間にビデオ嚥下造影検査(VF)を行なった嚥下障害例のうち,ゼラチンゼリー,全粥,トロミ付き水を使用し,摂食時姿勢として水平からの角度①30–45度と②60–90度の両者を施行しえた29例(男性16例,女性13例,平均年齢73歳)を対象とし,食物形態と摂食時姿勢の違いによる口腔通過時間の変化を検討した.VF画像より食物が舌中央部に入った時点から食物後端が口峡を越えるまでの時間を口腔通過時間として測定した.

【結果】口腔通過時間は摂食時姿勢が①30–45度ではゼリー4.6±4.8秒,粥8.3±8.1秒,トロミ付き水2.2±2.1秒,②60–90度ではゼリー6.9±7.0秒,粥7.0±6.6秒,トロミ付き水3.1±2.7秒であり,摂食時姿勢に関わらずトロミ付き水はゼラチンゼリー,全粥よりも短かった.全粥の咽頭への送り込みは摂食時姿勢に関わらず他の食物形態に比べて遅い傾向があった.ゼリーの送り込みについては姿勢60–90度よりも30–45度で速く,摂食時姿勢の違いにより送り込みに明らかな違いが認められた (p<0.05).

【考察】ゼリーを用いた訓練は直接的嚥下訓練の導入期に使用することが多く,この時期は誤嚥などの危険が高いため,安全性や口腔通過時間の延長による患者の負担を考慮し姿勢は30–45度で行う方が良いと考えられる.一方,トロミ付き水や全粥を用いて訓練を行なう場合には摂食時姿勢による口腔通過時間に有意な差はないものの咽頭期に重大な障害が無ければ,直接的嚥下訓練も段階が進み経口摂取量の増加が予想されることから,ADLをあげるためにも60–90度の摂食時姿勢を取る方が望ましいと考えられる.

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© 2008 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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