日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
ADL が低下した患者における口腔内細菌数の日内変動
内宮 洋一郎
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2010 年 14 巻 2 号 p. 116-122

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抄録

高齢者に対する口腔ケアの有用性については多くの報告がある.そのほとんどは,口腔内細菌と誤嚥性肺炎の関連について言及している.しかし,口腔内細菌数は絶えず変化しており,一度のサンプル採取で対象者の口腔内細菌数を測定しても,その値を評価することは難しい.そこで未だ詳細が明らかにされていないADL が低下した人々における口腔内細菌の日内変動を把握することを考えた.

対象者は某県内のリハビリ施設入居者と病院入院患者の中から,次の条件をすべて満たした36 名を選んだ.すなわち,1)年齢50 歳以上の者,2)介護保険の分類で要支援から要介護2 までで,セルフケアができている,3)10 ml の滅菌生食水で30 秒うがいし,吐き出すことができる,4)前記の課題を1 日7 回実施できる,5)検体採取の3 週間前から抗生物質を服用していない,の5 つの条件である.口腔内細菌の検体は毎食の前後,それに就寝前の1 日計7 回,滅菌生食水で30 秒間うがいさせた後,それを試験管に採取して搬送した.これを培養し,口腔内細菌数(CFU/ml)を算定した.

その結果,1)口腔内細菌数は朝食前に最高値,夕食後に最低値を示した.2)食事の前後における変化は,毎食前から毎食後に有意な減少を認めた.3)女性は男性より口腔内細菌数が多かった.4)脳血管疾患の有無により口腔内細菌数に差は認めなかった.5)義歯装着の有無により口腔内細菌数に差は認められなかった.6)残存歯の多少も口腔内細菌数に影響しなかった.以上のうち,義歯装着の有無に関して有意差はなかったが,口腔内細菌数の平均値の推移をみると,義歯装着者は1 日7 回とも,義歯を装着していない人より細菌数が多かったので,口腔ケアの必要性が高いと推測された.

以上より,口腔内細菌数を左右する最大の因子は食事であること,また女性に多いことが明らかとなった.特定の個人に絞って不顕性誤嚥に起因する誤嚥性肺炎を重点的に予防する目的であれば,就寝前の口腔ケアが効果的であると考えられる.

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© 2010 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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