【目的】食品は口腔内に取り込まれると,歯・舌・頬粘膜・口蓋などにより粉砕されるとともに,唾液と混合されて食塊が形成される.本研究は,食品粉砕による食塊の粒度の違いや唾液との混合による水分値の違いが食塊物性にどのような影響を与えるのか,さらに咀嚼を経ない随意嚥下時に口腔内に存在する食塊物性の特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】試料として粒度の異なる微粒子状の試料4 種(アーモンド粉砕品:大・中・小,さらしあん)を用いた.模擬唾液3 種(蒸留水・キサンタンガム0.05% 水溶液・キサンタンガム0.2% 水溶液)の添加量を変化させて各試料と混合したものを疑似食塊として,それぞれの組み合わせによって作製した疑似食塊のテクスチャー特性値(硬さ,凝集性,付着性),さらにガラス板上での広がり面積により流動性の値を得た.さらに,健常者を用いてこれらの試料を口腔内に含んだ後に嚥下直前に吐き出してもらい,それらの水分値を測定した.
【結果】各試料とも,模擬唾液の添加量を変化させることで,疑似食塊の物性が大きく変化した.水分値の違いによる物性変化の過程は,食品の粒度により異なっていたものの,嚥下直前食塊の水分値における疑似食塊の物性をみると限られた帯域に分布しており,硬さは9,400 から11,900 N/m2,凝集性は0.48 から0.66,付着性は1,000 から3,300 J/m3,流動性は20 から70 cm2 の間に収束していた.また,アーモンド粉砕品(大)を食塊として使用した際には,多くの被験者が嚥下にいたらず,さらにこの試料を用いた疑似食塊を用いた場合,上記の帯域にあてはめることができなかった.
【結論】食品の粒度や含有水分量の増減により,食塊物性は変化した.また,食塊の硬さ,凝集性,付着性,および流動性には,随意嚥下可能と判断するための適した範囲があると考えられる.