2011 年 15 巻 1 号 p. 31-39
【緒言と目的】当院は65 歳以上の高齢者が35.2% を占める高齢化地域にあり,その中核病院として救急患者は当院をすべて経由するという特徴がある.その特性を活かし,当院に入院した誤嚥性肺炎患者複数回入院群の特徴を検討し,誤嚥性肺炎の誘因を明らかにすることが本研究の目的である.
【対象と方法】平成19 年4 月から平成21 年6 月までに当院に入院した誤嚥性肺炎患者68 名.その68 名を1 回入院群53 例と複数回入院群15 例の2 群に分け,年齢や性別,在院日数,脳血管障害の既往,認知症,嚥下機能障害,反復唾液嚥下テスト(RSST),改訂水飲みテスト(MWST),食物テスト(FT),退院時食事形態,歩行能力,入院前生活場所,退院先,入院前・退院時食事自立度,高次脳機能障害の16 項目について比較した.
【結果】脳血管障害の既往,MWST,歩行能力で両群間に有意差を認めた.そのほか,複数回入院群は,87% が施設からの入院であり,注意障害やペーシング障害などの高次脳機能障害が64% を占め(p=0.03),退院時の食事自立度は約半数が自立または半介助レベルという特徴がみられた.
【考察と結論】誤嚥性肺炎の複数回入院群は,施設入所者に多く,高次脳機能障害の合併が多くみられ,食事自立度が半数は自立・半介助レベルという特徴があった.これは,藤本(2004)や東嶋ら(1995)が述べる,施設入所者と誤嚥性肺炎の関係性や自己管理能力についての報告と一致した.次に,当院の1 回入院群は複数回入院群に比べ重症化しやすかった.これは,自宅生活者の発症への気づきの遅れが原因と推察された.今後はデータの集積とともに,退院先や家族へ患者の摂食・嚥下障害に関して,さらに具体的な情報提供とともに,その知識と対処の普及,また認知症や高次脳機能障害,摂食・嚥下障害に対する精査・訓練法の充実化を図りたい.