【目的】先行期の感覚情報が準備期の捕食行動に及ぼす具体的な影響を明らかにすることを目的に,異なる先行期の条件を設定して,捕食時の口唇圧を測定した.
【対象と方法】対象は,健康な若年成人20 名(男性10 名,平均年齢23.3±2.2,女性10 名,平均年齢23.5±3.2 歳)である.小型圧センサを埋入したスプーンにゼリー状軟性食品4 g を載せ,以下の4 つの条件で各3 回捕食させ,捕食時口唇圧を測定し,口唇圧,口唇圧作用時間,口唇圧個人変動係数,口唇圧作用時間個人変動係数を解析し,条件間で比較検討した.軟性食品は味が異なり,物性が類似した8 種類の中からランダムに選んだ.条件1:閉眼での摂食介助,条件2:閉眼で声かけにて食品の種類を教えた摂食介助,条件3:開眼での摂食介助,条件4:開眼での自食.さらに捕食様式の圧波形のパターンを類型化し,分析した.
【結果と考察】捕食時口唇圧は条件間で有意差は認められなかったが,捕食時口唇圧作用時間は視覚情報のない条件1,2 において有意に長かった.また,口唇圧個人変動係数は,男性では条件1 で有意に大きく,また女性では条件4 で有意に小さかった.口唇圧作用時間個人変動係数は,男女とも条件による有意差はなかった.また,圧波形パターンは視覚情報の有無で異なり,閉眼時には,強い捕食圧をかける前に弱い陰圧もしくは陽圧をかける様式が多くみられた.一方,視覚情報があると,はじめから強い捕食圧をかける様式がみられ,また様式のバリエーションも増えた.これらのことから,視覚情報がないときは,口唇で長く圧をかけることで,食品の物性や形状,量を確かめる働きをするものと推察された.
【結論】先行期の感覚情報は,捕食時に口唇圧をかける時間,および捕食の様式に影響を与えることが示唆された.