日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
15 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • ―若年健常者における検討―
    池野 雅裕, 熊倉 勇美, 矢野 実郎
    2011 年 15 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    嚥下障害のスクリーニングテストには,反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)などの方法がある.RSST は感度が高く,リスクが少ないので広く臨床に普及している.しかし,頸部皮下脂肪が厚い,甲状軟骨の位置が高いなどのために喉頭挙上の確認ができず,検査の実施が困難な場合がある.本研究では,嚥下反射惹起時には舌骨下筋群ばかりでなく舌骨上筋群にも運動がみられることに着目し,甲状軟骨触診と下顎下面触診を併用することで,嚥下反射の検出率を向上させることができないかと考えた.仮説の検証には,表面筋電図と嚥下音の同時測定のほか,ビデオ嚥下造影(以下,VF)を使用し分析・検討を加えた.

    方法は,1)健常成人4 名に表面筋電図,嚥下音,VF,下顎下面触診の同時計測,2)健常成人20 名に表面筋電図,甲状軟骨触診,下顎下面触診および嚥下音の同時計測を行った.触診については,嚥下反射があったと思われる際に,検者が筋電図上にマークを付した.筋活動量は,絶対値処理後,積分法により算出した.また,表面筋電図の導出筋は舌骨上筋群,舌骨下筋群とした.その結果,1)嚥下音聴取と触診における嚥下反射惹起のマークを比較したところ,甲状軟骨触診のみで58%,甲状軟骨触診と下顎下面触診の併用で95% であり,有意に高くなった.また,未遂時と惹起時の舌骨上筋群筋活動量は,惹起時が有意に増加していた.2)VF により,喉頭が挙上し,喉頭蓋の反転がみられる(嚥下反射惹起)ほかに,嚥下躊躇と思われる喉頭の上下運動(嚥下反射未遂)が観察された.以上のことから,甲状軟骨触診のみで嚥下反射の確認が困難な対象者に対し,下顎下面触診を併用することで,RSST の精度が向上すると考えられた.

  • ―捕食時口唇圧に及ぼす影響―
    冨田 かをり, 大岡 貴史, 渡邊 賢礼, 石川 健太郎, 向井 美惠
    2011 年 15 巻 2 号 p. 156-164
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】先行期の感覚情報が準備期の捕食行動に及ぼす具体的な影響を明らかにすることを目的に,異なる先行期の条件を設定して,捕食時の口唇圧を測定した.

    【対象と方法】対象は,健康な若年成人20 名(男性10 名,平均年齢23.3±2.2,女性10 名,平均年齢23.5±3.2 歳)である.小型圧センサを埋入したスプーンにゼリー状軟性食品4 g を載せ,以下の4 つの条件で各3 回捕食させ,捕食時口唇圧を測定し,口唇圧,口唇圧作用時間,口唇圧個人変動係数,口唇圧作用時間個人変動係数を解析し,条件間で比較検討した.軟性食品は味が異なり,物性が類似した8 種類の中からランダムに選んだ.条件1:閉眼での摂食介助,条件2:閉眼で声かけにて食品の種類を教えた摂食介助,条件3:開眼での摂食介助,条件4:開眼での自食.さらに捕食様式の圧波形のパターンを類型化し,分析した.

    【結果と考察】捕食時口唇圧は条件間で有意差は認められなかったが,捕食時口唇圧作用時間は視覚情報のない条件1,2 において有意に長かった.また,口唇圧個人変動係数は,男性では条件1 で有意に大きく,また女性では条件4 で有意に小さかった.口唇圧作用時間個人変動係数は,男女とも条件による有意差はなかった.また,圧波形パターンは視覚情報の有無で異なり,閉眼時には,強い捕食圧をかける前に弱い陰圧もしくは陽圧をかける様式が多くみられた.一方,視覚情報があると,はじめから強い捕食圧をかける様式がみられ,また様式のバリエーションも増えた.これらのことから,視覚情報がないときは,口唇で長く圧をかけることで,食品の物性や形状,量を確かめる働きをするものと推察された.

    【結論】先行期の感覚情報は,捕食時に口唇圧をかける時間,および捕食の様式に影響を与えることが示唆された.

  • 熊倉 真理, 馬場 隆行, 堂園 浩一朗, 苅安 誠
    2011 年 15 巻 2 号 p. 165-173
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】舌位置の咽頭期嚥下に対する関与を知るため,健常成人で舌位置変化による舌骨・喉頭運動と食道入口部PES 開大の違いを調べた.【方法】健常男性13 名に,① いつものように,② 舌尖を上顎前歯口蓋側面に押しあて(上方固定),③ 下顎前歯舌側面に押しあて,④ どこにもあてずに,トロミ水を嚥下させた.透視側面像をもとに舌骨・喉頭変位量(直線・水平垂直距離)とPES 開大距離・持続時間を測定した.【結果】舌骨変位量は,舌位置が上方固定2 条件のほうが非上方2 条件より大きく,非上方 2 条件で10 cc のほうが3 cc より大きかった.喉頭変位量は,舌位置と摂取量にかかわらず同程度であった.PES 開大距離は,上方固定2 条件のほうが他の2 条件よりも大きく,10 cc のほうが3 cc よりも大きかった.舌の上方固定では,PES 開大距離と舌骨・喉頭の水平変位量との間に中等度の正の相関があった.【結論】舌の上方固定で舌骨変位量は大きくなり,PES 開大も促進される.

  • 福岡 達之, 杉田 由美, 川阪 尚子, 吉川 直子, 野﨑 園子, 寺山 修史, 福田 能啓, 道免 和久
    2011 年 15 巻 2 号 p. 174-182
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,舌骨上筋群に対する筋力強化の方法として,呼気抵抗負荷トレーニング(expiratory muscle strength training: EMST)の有用性を検討することである.

    【対象と方法】対象は,健常成人15 名(男性10 名,女性5 名,平均年齢29.3±4.6 歳)とした.方法は,EMST とMendelsohn 手技,頭部挙上を行ったときの舌骨上筋群筋活動を表面筋電図で測定した.EMST は,最大呼気口腔内圧(PEmax)の25% と75% の負荷圧に設定し,最大吸気位から強制呼気を行う動作とした.各トレーニング動作で得られた筋電信号について,1 秒間のroot mean square(RMS)とWavelet 周波数解析を用いてmean power frequency(MPF)を算出し,それぞれトレーニング間で比較検討した.

    【結果】舌骨上筋群筋活動(% RMS)は,EMST の75% PEmax が最も高く(208.5±106.0%),25% PEmax(155.4±74.3%),Mendelsohn 手技(88.8±57.4%),頭部挙上(100% として正規化)と比較し有意差を認めた.また,Wavelet 周波数解析から,EMST 時には他のトレーニング動作と比較し,高周波帯領域に持続する高いパワー成分が観察された.MPF は,EMST の75% PEmax が最も高く(127.8±20.7 Hz),25% PEmax(107.6±20.1 Hz),頭部挙上(100.4±19.3 Hz)と比較して有意差を認めた.

    【結論】EMST は,舌骨上筋群の運動単位動員とtype Ⅱ線維の活動量を増加させる可能性があり,筋力強化として有効なトレーニング方法になることが示唆された.

  • 浅野 一恵, 村上 哲一, 山倉 慎二
    2011 年 15 巻 2 号 p. 183-189
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】誤嚥性肺炎発症には,嚥下障害の要素のみならず,気道防御反応の破綻も大きく関与している.臨床的に誤嚥症状を認める重症心身障害児者(以下重症児者)に対し,誤嚥と気道防御反応の両面から,誤嚥性肺炎発症リスクを検討した.

    【対象】臨床的に誤嚥症状を認める重症児者(3 歳~44 歳)32 名に,嚥下造影と酒石酸咳反射テストを施行した.症状により,対象を許容群と非許容群の2 群に分類し,嚥下造影(以下VF)所見と酒石酸咳反射テストの結果を両群間で比較検討した.

    許容群: 食事中のむせ,嗄声,喘鳴,痰など誤嚥を疑わせる症状を認めるが,誤嚥に関連すると考えられる発熱を認めず,誤嚥が許容範囲内であると考えられる群非許容群: 食事中の誤嚥症状があり,かつ誤嚥に関連する発熱を半年に3 回以上認め治療を必要とし,誤嚥が許容範囲を超えていると考えられる群

    【結果】VF 検査上誤嚥を認めたのは32 名中20 名で,全例silent aspiration であった.VF 上誤嚥を認めた20 名中,許容群は10 名,非許容群は10 名であった.VF 所見(誤嚥量,嚥下反射惹起遅延,咽頭残留,誤嚥時期,高粘調物の誤嚥)で両群間に有意差を認めなかった.咳反射テストで,反応なしは許容群0 名,非許容群5 名で有意差(χ2 検定p<0.01)を認めた.

    【結論】酒石酸咳反射テストは,重症児者の誤嚥性肺炎のリスク検出に有意義な方法である.

  • ―捕食時口唇動作に及ぼす影響―
    大岡 貴史, 冨田 かをり, 石川 健太郎, 渡邊 賢礼, 向井 美惠
    2011 年 15 巻 2 号 p. 190-198
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食動作において,先行期における感覚情報が円滑な摂食・嚥下動作を行ううえで大きな役割を果たすことが知られている.その中でも,視覚,聴覚によって食物の性状や大きさを認識することにより,捕食時の動作や咀嚼といった嚥下の準備期をより適切に行うことができると考えられる.

    本研究では,先行期における感覚情報と準備期の摂食動作との関連を明らかにすることを目的に,先行期に得られる視覚,聴覚情報を制限した条件下にて捕食時の口唇動作を三次元的に測定し,先行期の感覚情報が捕食動作に与える影響について検討を行った.

    【方法】対象は,健康な若年成人男女20 名(男性10 名,平均年齢23.3±2.2 歳,女性10 名,平均年齢24.2±2.9 歳)である.対象者には,プラスチックスプーンにてゼリーを摂取させ,その際の口唇動作を記録した.摂取に際しては,(1)閉眼介助食べ,(2)閉眼+声かけ介助食べ,(3)開眼介助食べ,(4)開眼自食の条件を設定し,測定を施行した.口唇動作の記録では,上下口唇正中およびスプーンに直径5 mm のシールをマーカーとして貼付し,口唇動作および捕食の測定部位とした.課題終了後,コンピュータ上にて各マーカーの移動量を三次元的に測定し,口唇およびスプーン位置の解析を行った.

    【結果・考察】捕食時の口唇動作の測定結果では,閉眼時はスプーンが下唇に接触してから0.3 秒で開口を開始した.一方,閉眼および声かけ,開眼状態での介助食べでは開口開始が早いタイミングで生じており,自食では開口開始までの時間が短かった.開口を開始した時点のスプーンと口唇の距離については,自食の状態では介助食べより遠い位置から開口する傾向にあった.また,閉眼状態で声かけを行った場合と開眼での介助食べでは,ほぼ同じ数値を示した.

    最大開口量では,4 つの状態における著明な差はみられなかったものの,自食時に大きい数値を示し,閉眼時は小さい数値を示す傾向にあった.

    スプーン挿入長さは,閉眼状態で大きな値を示したものの,個人変動係数は開眼あるいは自食状態のほうが顕著に大きい値を示した.

    【結論】先行期において感覚情報が制限された状態では,捕食動作に影響が生じるとともに,聴覚情報によりその影響を補い,捕食動作への影響を軽減しうる可能性が示唆された.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 百瀬 由美子, 布谷 麻耶, 藤野 あゆみ, 横矢 ゆかり, 坂上 貴之
    2011 年 15 巻 2 号 p. 199-208
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者が自律的に実行できる口腔ケアプログラムの開発を目指し,PRECEDE-PROCEEDモデルを用いた口腔保健行動に関連する評価尺度を開発することを目的とした.

    【方法】所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.口腔保健行動に関連する評価尺度は,地域高齢者に実施したGreen らのPRECEDE-PROCEED モデルを用いたフォーカス・グループ・インタビューから開発され,41 項目で構成された.研究対象は,地域高齢者および同居家族の合計1,883 名とし,口腔保健行動に関連する評価尺度に関する質問紙調査が郵送法で実施された.

    【結果】分析対象は803 名で,平均年齢75.7 歳,男性が42.0%,20 本以上の歯を有する者が47.4% であった.口腔保健行動に関連する尺度41 項目は,回答割合,平均値による検討および因子分析の結果,16 項目が削除され,25 項目が選定された.探索的因子分析の結果,6 要因,「QOL」「口の健康」「口腔保健行動」「準備要因」「強化要因」「実現要因」が抽出された.その6 要因は,7 要因で構成されるPRECEDEモデルと類似した構造であった.PRECEDE モデルを用いた構成概念間のモデル適合度は,GFI は0.866,AGFI は0.837 を示し,許容範囲であることが確認された.内的整合性を示すα係数は尺度全体0.773 であった.

    【結論】評価尺度の妥当性と信頼性は許容範囲であることが確認された.

短報
  • 栢下 淳, 大越 ひろ, 前田 広士, 高橋 浩二, 藤島 一郎, 藤谷 順子
    2011 年 15 巻 2 号 p. 209-213
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    日本摂食・嚥下リハビリテーション学会評議員で嚥下食を提供していると考えられる施設を対象に,嚥下食を提供している対象者数および作製にかかる費用を調査した.

    1 食当たりの嚥下食の平均配食数は,ゼリー状食品では主食13 食,副食16 食で,この食数の作製に要する平均時間は主食48 分,副食63 分であった.ペースト状食品では,主食22 食,副食24 食で,要する平均時間は主食59 分,副食85 分であった.咀嚼対応食では,主食49 食,副食51 食で,要する平均時間は主食65 分,副食94 分であった.

    得られた結果をもとに,国立病院機構に勤務して5 年目の管理栄養士の基本給をもとに算出すると,嚥下食1 食当たりの作製にかかる人件費は,ゼリー状食品では主食109 円,副食114 円,ペースト状食品では主食77 円,副食100 円,咀嚼対応食では主食38 円,副食53 円であった.

    また,形態調整している食事を食している一般病床および療養病床の入院患者数は,42 万人と推計された.

症例報告
  • 梅本 丈二, 青柳 直子, 北嶋 哲郎, 原 嚴, 喜久田 利弘
    2011 年 15 巻 2 号 p. 214-219
    発行日: 2011/08/31
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】シェーグレン症候群(SS)患者の嚥下困難の訴えは,高頻度にみられ,QOL低下をもたらす.唾液分泌促進薬であるピロカルピン塩酸塩の嚥下困難症状への有効性を検討する目的で,SS 患者3症例に対しピロカルピン塩酸塩内服前後での唾液分泌量や自覚的口腔乾燥症状,嚥下造影像の変化を分析した.

    【対象と方法】原発性SS と診断された女性患者3 名を対象とした.年齢は,症例A が67 歳,症例B が45 歳,症例C は35 歳であった.ピロカルピン塩酸塩を症例A とB は15 mg/ 日,症例C は5 mg/ 日内服した.内服前後での唾液分泌量をガムテストにて,自覚的口腔乾燥症状をVAS にて,バリウム含有クッキー1.5 g の嚥下動態を嚥下造影検査にて評価した.

    【結果】ピロカルピン塩酸塩内服1 カ月後の唾液分泌量は,症例A で0.7 ml/10 分増加,症例B で0.5 ml/10 分減少,症例C で18.0 ml/10 分の大幅増加が認められた.VAS 値は,症例A が91 mm から26 mm へ,症例B が52 mm から0 mm へ,症例C が79 mm から18 mm へ大幅に改善した.嚥下動態について,症例A は内服前にクッキー1.5 g を嚥下できなかったが,内服1 時間後には口腔咽頭通過時間56 秒で嚥下可能となった.症例B とC の内服1 カ月後の口腔咽頭通過時間は,それぞれ46 秒から38 秒,23 秒から13 秒に短縮した.

    【結論】ピロカルピン塩酸塩内服後,3 例とも自覚的口腔乾燥症状とクッキーの口腔咽頭通過時間が改善したが,ガムテストによる唾液分泌量の変化には関連がみられなかった.安静時,唾液分泌の増加によって口腔内が湿潤し,食塊形成が円滑になった可能性が考えられた.

feedback
Top