【目的】摂食動作において,先行期における感覚情報が円滑な摂食・嚥下動作を行ううえで大きな役割を果たすことが知られている.その中でも,視覚,聴覚によって食物の性状や大きさを認識することにより,捕食時の動作や咀嚼といった嚥下の準備期をより適切に行うことができると考えられる.
本研究では,先行期における感覚情報と準備期の摂食動作との関連を明らかにすることを目的に,先行期に得られる視覚,聴覚情報を制限した条件下にて捕食時の口唇動作を三次元的に測定し,先行期の感覚情報が捕食動作に与える影響について検討を行った.
【方法】対象は,健康な若年成人男女20 名(男性10 名,平均年齢23.3±2.2 歳,女性10 名,平均年齢24.2±2.9 歳)である.対象者には,プラスチックスプーンにてゼリーを摂取させ,その際の口唇動作を記録した.摂取に際しては,(1)閉眼介助食べ,(2)閉眼+声かけ介助食べ,(3)開眼介助食べ,(4)開眼自食の条件を設定し,測定を施行した.口唇動作の記録では,上下口唇正中およびスプーンに直径5 mm のシールをマーカーとして貼付し,口唇動作および捕食の測定部位とした.課題終了後,コンピュータ上にて各マーカーの移動量を三次元的に測定し,口唇およびスプーン位置の解析を行った.
【結果・考察】捕食時の口唇動作の測定結果では,閉眼時はスプーンが下唇に接触してから0.3 秒で開口を開始した.一方,閉眼および声かけ,開眼状態での介助食べでは開口開始が早いタイミングで生じており,自食では開口開始までの時間が短かった.開口を開始した時点のスプーンと口唇の距離については,自食の状態では介助食べより遠い位置から開口する傾向にあった.また,閉眼状態で声かけを行った場合と開眼での介助食べでは,ほぼ同じ数値を示した.
最大開口量では,4 つの状態における著明な差はみられなかったものの,自食時に大きい数値を示し,閉眼時は小さい数値を示す傾向にあった.
スプーン挿入長さは,閉眼状態で大きな値を示したものの,個人変動係数は開眼あるいは自食状態のほうが顕著に大きい値を示した.
【結論】先行期において感覚情報が制限された状態では,捕食動作に影響が生じるとともに,聴覚情報によりその影響を補い,捕食動作への影響を軽減しうる可能性が示唆された.
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