日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
両側延髄内側梗塞による嚥下障害を呈した1 症例
今井 真紀高橋 素彦鶴田 薫前野 豊
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2011 年 15 巻 3 号 p. 319-323

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抄録

両側延髄内側梗塞により嚥下障害を呈した1 症例を報告する.症例は42 歳の男性.悪心,嘔吐,ふらつきで発症し,近医に救急搬送された.誤嚥性肺炎を併発し,第16 病日に気管切開術を施行.発症約2 カ月で,リハビリテーション目的にて当科に転入院となった.

転入院時は,意識清明,痙性四肢麻痺および左半身の感覚障害を認めた.舌,軟口蓋に明らかな運動障害は認めなかった.嚥下内視鏡検査では,唾液が梨状窩に多量に貯留し,持続的に喉頭内に流入していた.経鼻胃管を留置し,経口摂取は未実施であった.

 気管切開カニューレ離脱・経口摂取に向け,カフ脱気下での発声・喀痰訓練,リクライニング位での直接訓練を開始し,訓練開始から約3 カ月で気管切開孔閉鎖,嚥下食による3 食経口摂取が可能となった.気管切開カニューレ離脱後の嚥下造影検査では,食道入口部の開大は保たれているものの咽頭収縮は不十分であり,嚥下後に多量の咽頭残留が確認された.また,喉頭挙上運動の開始遅延による液体の不顕性誤嚥を認めた.メンデルソン手技や息こらえ嚥下の訓練を行い,訓練開始より約4 カ月で普通食の摂取が可能となった.

両側延髄内側梗塞後の嚥下障害について,これまでの報告では,重症例はいずれも誤嚥性肺炎により予後不良な経過をたどっていた.本症例も急性期には重度の嚥下障害を呈したものの,呼吸障害を免れたこと,若年で体力もあり気管切開カニューレ離脱・経口摂取に向けた積極的な治療介入を行えたことにより,良好な経過をたどることができたと考えられる.

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© 2011 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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