日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
下咽頭梨状窩瘻が原因で深頸部膿瘍と摂食・嚥下障害をきたした1 例
大野 綾藤島 一郎
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2011 年 15 巻 3 号 p. 310-318

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抄録

下咽頭梨状窩瘻は梨状窩から甲状腺近傍に向かう先天性瘻孔であり,反復する頸部膿瘍や急性化膿性甲状腺炎の原因疾患として報告されている.深頸部膿瘍で手術後,摂食・嚥下リハビリテーションを行い,改善後の嚥下造影所見で下咽頭梨状窩瘻と診断した症例を経験したので報告する.

症例は,既往歴に特記事項のない65 歳男性.左頸部有痛性腫脹をきたし頸部膿瘍の診断で入院した.第6 病日のCT にて膿瘍の拡大と縦隔炎の合併を認め,同日緊急頸部膿瘍切開排膿術,第12 病日には頸部壊死組織の除去術が行われた.術後,嚥下障害が認められ,摂食・嚥下リハビリテーションを開始した.嚥下造影検査で喉頭挙上不全,咽頭収縮不全,食道入口部開大不全を認め,咽頭残留が著明で嚥下後誤嚥がみられた.食道入口部開大障害に対してバルーン拡張法を試し,即時,効果が確認された.その後,摂食訓練と並行してバルーン訓練を行い,徐々に改善を認めた.第69 病日に,消化移行食摂取の状態で自宅に退院した.改善後の嚥下造影所見にて,左梨状窩から尾側に伸びる瘻管の存在を指摘,下咽頭梨状窩瘻の診断に至り,頸部膿瘍の原因と判明した.嚥下内視鏡検査でも,瘻孔の開口部が確認された.

本症例のように,糖尿病や免疫不全などリスクファクターなく重度の頸部膿瘍をきたした場合,積極的に本症を疑い精査を行う必要がある.

深頸部膿瘍の合併症について,嚥下障害もひとつとしてあげられてはいるが,詳細な報告は少ない.本症例では,咽頭収縮低下,食道入口部開大不全を認め,炎症や組織瘢痕が原因と疑われた.食道入口部開大障害に対し慎重にバルーン拡張訓練を施行し有効であった.

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© 2011 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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