2012 年 16 巻 1 号 p. 32-41
【目的】摂食・嚥下障害の機能改善を目的とした義歯型補助具が臨床応用されているが,適応の判断,手技,機能評価などは,各補助具に熟練した一部の術者の裁量にゆだねられているのが現状である.そこで,今回,補助具の中で最も応用頻度の高い舌接触補助床(palatal augmentation prosthesis; PAP)の適応と有効性について検討した.
【方法】摂食機能訓練実施およびPAP 装着による介入群(74 名)と,摂食機能訓練のみ実施した非介入群(コントロール群68 名)を対象に,前向き調査にて比較検討を行った.介入群は,初診から2 週間後に初回評価を行い,機能訓練とPAPの装着を開始した.PAP装着開始から2 週間後,効果判定のために再評価を行った.一方,コントロール群は,初診から2 週間後に初回評価を行って機能訓練のみを開始し,2週間後に再評価を行った.
【結果・考察】PAP 適応の判断は,装着患者の疾患が多岐にわたっているため,「舌挙上不全・不良」「構音不明瞭」といった病態のほうが行いやすかった.PAPは,装着後2 週間という短期間で,「舌挙上不全・不良」の病態を有する摂食・嚥下障害に対して,「咬断,臼磨,粉砕,混合が終了した時点から食塊移送のための嚥下反射惹起を誘導し,咽頭通過および食道入口部に至る過程」に効果があり,舌運動不良による構音障害に対しても有効であることが確認された.多少でも経口摂取が可能になると,「外出意欲の向上」「会話する機会の増加」など,食生活のみならず生活全般にも好影響を及ぼすことが期待できた.PAPは,機能の代償をする補助具であり,機能回復や機能低下予防のためには,従来通り機能訓練を継続していく必要があると思われた.
【結論】1.PAP の適応の判断は,疾患よりも病態のほうが行いやすかった.2.PAP は,装着後2週間という短期間で,口腔相障害と咽頭相障害に対して有効であることが示された.