日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
16 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • ―Functional Oral Intake Scale (FOIS) を用いた検討―
    松尾 浩一郎, 望月 千穂, 並河 健一, 牧井 覚万, 河瀬 聡一朗, 脇本 仁奈, 武井 洋一, 大原 慎司, 小笠原 正
    2012 年 16 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】神経筋疾患患者では,無自覚のうちに摂食・嚥下障害が進行し,誤嚥性肺炎や窒息などの重篤な合併症により入院することが多い.そこで,本研究では,摂食・嚥下障害を有する神経筋疾患患者の栄養摂取レベルが,入院と嚥下内視鏡検査(videoendoscopic evaluation of swallowing, VE)を通してどのように推移したか,後ろ向きに調査を行った.また,どのような臨床症状が,VE 後の栄養摂取レベルと関連性があるのか検証した.

    【対象と方法】某病院に入院後,嚥下外来を受診した神経筋疾患患者25 名を対象とした.本研究では,対象者の問診表,摂食・嚥下機能評価表(嚥下評価表),VE 評価用紙から必要事項を抜粋し,後ろ向きに調査した.入院前,入院後,VE 後での栄養摂取レベルをfunctional oral intake scale(FOIS)を用いて評価し,統計学的に比較した.また,嚥下評価表およびVE 評価用紙の中から,VE 後のFOIS に関連した因子があるか否か分析を行った.

    【結果】入院理由は,肺炎・発熱と食欲低下が9 例でいちばん多かった.FOIS 値は,入院前と比べ,入院後で有意に低く(p=0.002),VE後でも有意に低下したままであった(p=0.023).VE後のFOIS 値は,嚥下評価表の「食物残渣」「湿性嗄声」「随意の咳」の項目および,VE 検査表の「咽頭唾液貯留」の項目と有意な関連性を示した.

    【結論】肺炎・発熱や食欲低下などを理由に入院している場合,多くの患者で,入院を通して栄養摂取レベルが低下していたことが明らかになった.症状の重篤化による入院となる前にスクリーニングや適切な評価を行い,摂食・嚥下障害由来の合併症を予防する必要性があると考える.また,今回の結果で,有意な値をとった関連因子が,今後,栄養摂取レベル評価のためのスクリーニングの指標になる可能性が示された.

  • 鈴木 瑠璃子
    2012 年 16 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】より精度の高い不顕性誤嚥(silent aspiration,以下SA)のスクリーニングを咳テストにて行うために,クエン酸を用いた嚥下障害患者の咳閾値やクエン酸の至適濃度について検討した.

    【対象と方法】嚥下障害を認め,嚥下内視鏡検査(videoendoscopic examination of swallowing,以下VE)もしくは嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing,以下VF)を実施した21 歳から92歳の患者94名(男性64名,女性30名,平均年齢66±13歳)を対象として咳テストを実施した.

    超音波ネブライザから1 分間クエン酸生理食塩水を吸入させ,咳反応を観察した.1 分間で咳が5 回以上みられた濃度を,被験者の咳閾値と設定した.咳が4 回以下であれば,5 回認められるまでクエン酸の濃度を上げて,咳テストを実施した.クエン酸の濃度は,0.25,0.5,1.0,2.0,4.0,8.0% とした.得られたデータより,SA のスクリーニングの感度,特異度を求め,ROC 曲線を作成した.

    【結果】各濃度における感度・特異度を求めると,0.25% では感度0.95,特異度0.07,陽性反応的中度(positive predictive value,以下PPV)0.23,陰性反応的中度(negative predictive value,以下NPV)0.83,0.5% では感度0.95,特異度0.22,PPV 0.26,NPV 0.94,1% では感度0.71,特異度0.54,PPV 0.31,NPV 0.87,2% では感度0.38,特異度0.92,PPV 0.57,NPV 0.84,4% では感度0.05,特異度0.99,PPV 0.50,NPV 0.78,8% では感度0.00,特異度1.00,PPV 0.77,NPV 0.00 であった.以上の結果より,ROC 曲線を作成した.ROC 曲線下面積は0.81 であった.ROC 曲線と感度・特異度からカットオフ値を検討したところ,クエン酸の至適濃度は1.0% であった.

    咳閾値は,全体の平均が1.55±1.44% であった.VE・VF の結果による各群の咳閾値は,誤嚥無群1.26±1.25%,顕性誤嚥群1.21±1.03%,SA 群2.63±1.78% であった.SA 群は,誤嚥無群と顕性誤嚥群の両者にて有意差が認められた(p<0.01).

    【結論】咳テストのクエン酸水溶液至適濃度は1.0%であった.また,SA群は,誤嚥無群と顕性誤嚥群両者と比較して,咳感受性が著しく低下していることが明らかとなった.

  • 小山 珠美, 黄金井 裕, 加藤 基子
    2012 年 16 巻 1 号 p. 20-31
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】脳卒中急性期では,肺炎などの合併症や廃用症候群の予防を含めたリスク管理に加えて,早期経口摂取の開始と段階的摂食訓練,セルフケア能力の向上にむけた系統的,包括的な摂食・嚥下リハビリテーションが必要である.今回,脳卒中急性期患者への効果的な摂食・嚥下リハビリテーションを行うために,平成19 年度より実施したプログラムの有効性を検討した.

    【対象】平成18 年4 月1 日から平成21 年3 月31 日までに,救急搬送された脳卒中急性期患者のうち,摂食機能療法で介入した367 名.男性223 名,女性144 名,平均年齢71±12.8 歳.

    【方法】367 名の属性および摂食機能療法介入による結果(経口摂取移行者数,入院から摂食機能療法開始までの日数,入院から経口移行までの日数,入院中の肺炎発症率,退院時嚥下能力グレード点数,平均在院日数)を年度ごとに比較し,プログラム実施前後の変化および影響因子を検討した.分析は統計ソフトSPSS ver13 を使用し,統計学的有意水準は5% 未満とした.

    【結果】プログラム実施前(平成18 年度)に比べ,プログラム実施後(平成19 年度・20 年度)は経口摂取移行者が増加し(プログラム前83.1%,プログラム後93.4%),入院から経口摂取移行までの日数が短縮した(プログラム前14 日,プログラム後6.8 日).また,入院中の肺炎発症率が減少(プログラム前13%,プログラム後2.8%),退院時嚥下能力グレードが改善し(プログラム前7.6 点,プログラム後8.8 点),普通食を食べて退院できる患者が増えた.また,ロジスティック回帰分析により,プログラムは,入院中肺炎発症を減少させ,退院時嚥下能力グレードを改善させていた.

    【結論】脳卒中急性期において,入院当日からの包括的なプログラムにより実施される摂食・嚥下リハビリテーションは,早期経口摂取の再獲得を高め,経口摂取移行率を増加させた.また,肺炎合併症の予防,退院時嚥下能力グレードの改善に寄与することが示唆された.

  • 植田 耕一郎, 向井 美惠, 森田 学, 菊谷 武, 渡邊 裕, 戸原 玄, 阿部 仁子, 中山 渕利, 佐藤 光保, 井上 統温, 飯田 ...
    2012 年 16 巻 1 号 p. 32-41
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害の機能改善を目的とした義歯型補助具が臨床応用されているが,適応の判断,手技,機能評価などは,各補助具に熟練した一部の術者の裁量にゆだねられているのが現状である.そこで,今回,補助具の中で最も応用頻度の高い舌接触補助床(palatal augmentation prosthesis; PAP)の適応と有効性について検討した.

    【方法】摂食機能訓練実施およびPAP 装着による介入群(74 名)と,摂食機能訓練のみ実施した非介入群(コントロール群68 名)を対象に,前向き調査にて比較検討を行った.介入群は,初診から2 週間後に初回評価を行い,機能訓練とPAPの装着を開始した.PAP装着開始から2 週間後,効果判定のために再評価を行った.一方,コントロール群は,初診から2 週間後に初回評価を行って機能訓練のみを開始し,2週間後に再評価を行った.

    【結果・考察】PAP 適応の判断は,装着患者の疾患が多岐にわたっているため,「舌挙上不全・不良」「構音不明瞭」といった病態のほうが行いやすかった.PAPは,装着後2 週間という短期間で,「舌挙上不全・不良」の病態を有する摂食・嚥下障害に対して,「咬断,臼磨,粉砕,混合が終了した時点から食塊移送のための嚥下反射惹起を誘導し,咽頭通過および食道入口部に至る過程」に効果があり,舌運動不良による構音障害に対しても有効であることが確認された.多少でも経口摂取が可能になると,「外出意欲の向上」「会話する機会の増加」など,食生活のみならず生活全般にも好影響を及ぼすことが期待できた.PAPは,機能の代償をする補助具であり,機能回復や機能低下予防のためには,従来通り機能訓練を継続していく必要があると思われた.

    【結論】1.PAP の適応の判断は,疾患よりも病態のほうが行いやすかった.2.PAP は,装着後2週間という短期間で,口腔相障害と咽頭相障害に対して有効であることが示された.

  • 高橋 智子, 河村 彩乃, 森下 博己, 大越 ひろ
    2012 年 16 巻 1 号 p. 42-49
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,加湯・攪拌することでゲル状のブレンダー粥が調製できる市販粉末状食品を材料とし,攪拌条件を変えて試料を調製した.特別用途食品えん下困難者用食品規格基準の試験方法に従って測定したテクスチャー特性,および簡便な評価方法であるリング法により力学的特性を把握し,官能評価より得られた食べやすさとの関係を検討した.本研究で用いたゲル状ブレンダー粥試料は,厚生労働省が定めた特別用途食品のえん下困難者用食品規格基準,許可基準Ⅱの硬さ(1×103 ~1.5×104 N/m2)および付着性,凝集性の基準範囲内であった.粉末ゲル状ブレンダー粥を材料としたゲル試料は,加熱調製中に多数回攪拌を行うことで,ゲル形成が阻害され,試料品温45℃,20℃いずれにおいても,テクスチャー特性の硬さは軟らかくなったが,付着性は試料品温により,多数回攪拌の影響が異なった.リング法による測定では,加熱調製中に多数回攪拌を行うことで軟らかいゲルとなった試料の広がり係数は大きく,すなわち広がりやすく,測定に使用したガラスリングへの試料の付着重量も大となった.このような特性を有するゲル状ブレンダー粥試料は,官能評価により,軟らかく,べたつき感があり,飲み込みにくい傾向であると評価された.以上の結果より,許可基準Ⅱの硬さの基準範囲内にある軟らかいゲル状食品の食べやすさは,簡便な測定方法であるリング法により推測可能であることが示唆された.本研究において,試料品温により,テクスチャー特性の付着性とべたつき感の関係が異なった結果を受けて,的確に食べやすさをあらわすことができるテクスチャー特性の付着性の測定方法を検討する必要性が示唆された.
  • 野村 綾子
    2012 年 16 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    周術期の口腔ケアにより人工呼吸器関連肺炎や創部感染の予防効果があるとされ,手術患者の口腔ケアが推奨されている.口腔内細菌の減少は感染性合併症予防の重要な要因と考えられるが,それ以外に,患者の免疫機能や栄養状態も関与すると考えられる.本研究では,口腔ケアの効果発現の要因のひとつに免疫機能も関与していると想定した.そこで,口腔ケアと免疫機能の関係について明らかにすることを目的に,口腔内細菌数とともに,免疫機能の指標としてNK 細胞活性を測定した.

    消化器がん手術を受ける患者36 名を対象に,従来通り本人または介護従事者が口腔清掃に関わったコントロール群と,歯科医師が入院前に1 回,術後2 日目より6 日目までの間,原則として毎日1 回口腔ケアを実施した口腔ケア群の2 群に分けた.そして,口腔内細菌数,NK 細胞活性,プレアルブミンを測定した.

    その結果,口腔内細菌数は,コントロール群では手術前に比べ術後7 日目に増加し,口腔ケア群では増加しなかった.NK 細胞活性は,コントロール群では手術前に比べ術後7 日目に低下したが,口腔ケア群では低下せず,同一レベルに維持できた.プレアルブミンは両群ともに,顕著な低下を示した.

    以上より,術後の消耗が激しい消化器がん患者において,周術期に歯科医師による口腔ケアを実施することにより,自浄作用が働きにくい口腔内の細菌数増殖を抑制することができた.また,ソーシャルサポート感によるものと推察されるが,NK 細胞活性も維持することができた.今後,消化器がん患者の周術期にも口腔ケアが普及することが望まれる.

短報
  • 中久木 康一, 戸原 玄, 小城 明子
    2012 年 16 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    大規模災害時における被災者に対する保健医療体制は整備されつつあるが,災害弱者である難病患者への体制整備などはまだ不十分であるといわれている.歯科においては,摂食・嚥下障害をもつ高齢被災者への栄養摂取の問題への対応が期待されており,歯科における摂食・嚥下障害患者に対する備えの実態の概略を把握したうえで,われわれが提案した救護体制案についてアンケート調査を行い,今後の対応に必要な課題を調査した.

    災害時に摂食・嚥下障害患者に対して可能な支援としては,歯科治療のみならず摂食・嚥下機能の判定,食事指導,口腔ケアへの対応が可能であるとされたが,救護体制はほとんどの場合整っていなかった.しかし,6 割が,その救護体制を整備する必要性を認めていた.また,提案した歯科医師会と病院歯科とが連携した支援体制については,歯学部においては対応が可能としたところも少なくなかったが,診療所においては対応が困難であり,病院や歯科医師会においては,返答にばらつきがみられた.

    摂食・嚥下障害は歯科のみで対応するものではなく,さらに摂食・嚥下機能の判定が可能であった場合にも,実際に食べられる食事をどのように提供してゆくかという問題も存在する.このように,地域横断的な,行政機関や職能団体における連携・支援体制を含めたマニュアルやガイドラインなどが必要とされ ており,これらをふまえて,多職種連携における各関係職の教育研修会,情報交換などを実施していく必要性が示された.

症例報告
  • 中川 量晴, 三瓶 龍一, 河原 彌生, 戸原 玄, 吉岡 麻耶, 渡邊 賢礼, 向井 美惠
    2012 年 16 巻 1 号 p. 64-69
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【緒言】マルキアファーヴァ・ビニャミ病(MBD: Marchiafava-Bignami disease)は,アルコール多飲や栄養障害に起因し,脳梁やその他の白質病変によって意識障害や痙攣などの症状を呈する特異的な疾患である.今回われわれは,重度嚥下障害のMBD 患者に摂食・嚥下リハビリテーション(以下,嚥下リハ)を実施し,経管栄養から経口摂取へ完全移行した1 例を経験したので,ここに報告する.

    【症例】46 歳の女性.意識障害で救急搬送され,頭部MRI 所見で脳梁に高信号域があり,アルコール多飲の既往があったためMBD と診断された.発症から2 カ月後,急性期病院から療養病院への転院を契機に,摂食・嚥下機能の精査と食事摂取支援を開始した.

    【経過】口腔周囲機能の低下があり,四肢関節可動域の制限から良肢位の確保が困難であった.著しい球麻痺症状はなく,初回の嚥下内視鏡検査(video-endoscopy,以下,VE)で,自己唾液の嚥下は可能であることを確認した.この時点で,経管栄養を継続し,口腔のケアや口腔周囲の機能訓練および筋力増強訓練,低強度の可動域訓練等を主として実施した.転院後65 日目のVE 再評価でゼリーの誤嚥を認めなかったため,介助下でゼリーの直接訓練を開始した.錐体外路症状と考えられる両側上下肢肢位異常の影響で自立摂取は困難であったが,姿勢保持や手首と肘の運動を補助して食具を口腔へ運ぶ訓練を繰り返した.その後もVE で,誤嚥がないことを確認しながら,最終的に部分介助でペースト食の経口摂取が可能となった.また,姿勢保持訓練等が奏効し,患者の機能的自立度評価スコアは,摂食・嚥下機能の向上に従い,認知項目・運動項目ともに若干向上した.

    【まとめ】これまで口腔や嚥下機能に関する報告がないMBD 患者に対して,嚥下リハを実施することにより,一定の機能改善を認めた.MBD は,その治療過程において,摂食・嚥下機能障害を見過ごさないことが重要で,それへの適切な対応により,合併症を減らし全身状態の安定,ADL 向上に寄与する可能性が示唆された.

  • 寺田 泉, 大野 友久, 藤島 一郎, 高柳 久与
    2012 年 16 巻 1 号 p. 70-74
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    【緒言】摂食・嚥下障害患者における薬剤の内服方法は,重要な問題である.今回われわれは,薬剤の口腔内残留により,潰瘍形成を認めた症例を経験したので報告する.

    【症例】89 歳女性.高血圧,脳梗塞後遺症.認知症のため意思疎通はやや困難.平成X年より施設入所.入院前は車椅子,普通食摂取であった.平成X+12年10月,肺炎,呼吸不全,摂食・嚥下障害疑いで当院呼吸器科に入院.主科判断により食事形態はミキサー食となっており,介助にて3 食摂取していたが,時折ムセることがあった.

    【経過】平成X+12 年11 月に,看護師より口腔内から出血があるとの報告があり,歯科介入開始.口腔内所見は,無歯顎で口腔乾燥あり,右頬粘膜~舌下部,右口唇にかけて緑黄色の粘膜の変色,中心部には潰瘍形成と出血を認めた.口腔ケアを歯科衛生士にて継続実施し,改善が認められた.しかし,口腔ケア開始5日目に,左頬粘膜~舌下部にも同様の所見が認められた.その際,鉄剤(フェロ・グラ錠®)の同部位への残留が認められ,それによる潰瘍形成が推定された.改訂水飲みテストで問題がなかったため,主科より,薬剤は食後に水で内服という指示になっていた.そこで,歯科衛生士から看護師に,薬剤の服用後に口腔内残留がないか確認してもらうよう依頼した.しかし,その2 日後には,抗血小板薬(プレタール錠®)の口蓋部への残留が認められたため,病棟看護師と検討した結果,薬剤をゼリーに埋め込む内服方法に切り替えた.それ以後は,問題を認めなかった.上記口腔ケア方法を継続し,左右頬粘膜の潰瘍は20日で完全に治癒した.

    【考察】薬剤の口腔内残留は,本症例のように粘膜を損傷させる恐れがあるばかりか,必要量の薬剤が体内に吸収されないことにもつながり,大きな問題である.歯科衛生士の重要な役割としては,口腔ケアだけでなく,薬剤の口腔内残留の発見や,適切な薬剤の投与方法を提言するのも責務のひとつであると考えられた.

  • ―シングルケーススタディ―
    柳澤 幸夫, 松尾 善美, 春藤 久人, 直江 貢, 中村 武司, 堀内 宣昭
    2012 年 16 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2020/05/28
    ジャーナル フリー

    近年,誤嚥性肺炎を予防するトレーニングとして,呼気筋トレーニング(expiratory muscle training:以下,EMT)が注目されている.EMT の効果としては,呼吸筋力や咳嗽能力の改善,ならびに嚥下機能への影響を示唆する報告が散見される.しかし,これらに関する報告はまだ少ない.今回われわれは,在宅療養中のパーキンソン病患者に対して,EMT を実施し,呼吸機能,咳嗽能力,呼吸筋力に加えて,口腔筋機能や質問紙を用いて摂食嚥下機能に関連する周辺症状に与える効果を明らかにすることを目的とした症例研究を実施した.

    症例は64 歳の男性.診断名はパーキンソン病である.現在,病院神経内科に通院し,介護保険サービスを利用し,在宅療養中である.Hoehn & Yahr 分類はstage Ⅲで,Barthel index は65 点である.研究計画はA-B-A デザインとした.EMT はThreshold IMT(RESPIRONICS 社製)を用いて,トレーニング期間を4 週間とした.EMT の負荷設定は最大呼気筋力の30% とし,頻度は1 日15 分間2 回とした.評価項目は,呼吸機能,咳嗽能力,呼吸筋力の測定である.また,口腔筋機能,摂食嚥下機能についての評価も実施した.

    その結果,EMT 後に,呼吸機能では最大呼気流速と咳嗽時最大呼気流速が増加した.呼吸筋力では,最大呼気筋力,最大吸気筋力が増加した.口腔筋機能では,RSST はEMT 前後とも正常であった. 口唇閉鎖力は,平均4.82 N から5.61 N に上昇した.摂食嚥下質問紙では,体重減少,嚥下困難感,むせ,口腔外流出の各項目に変化が認められた.

    本研究の結果,EMT は単に呼吸筋力増強のみではなく,咳嗽能力を向上させ,摂食嚥下機能また口腔筋機能にも影響を与え,患者の致死的原因となる誤嚥性肺炎の予防につながる可能性が示唆された.今後,データを蓄積し,EMT が嚥下機能へ及ぼす影響について,さらなる検討をする必要があると考えられる.

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