【緒言】高齢者の嚥下障害は,加齢による影響だけでなく,廃用により修飾・助長されるといわれている.廃用は,生体の活動性や運動量の低下が続くことで生じる機能低下の総称であり,嚥下機能の廃用は,嚥下頻度の減少により生じる可能性がある.高齢者における嚥下頻度の減少を疑う例として,経口摂取を禁止された経管栄養症例,あるいは加齢や薬剤の影響による唾液分泌量の低下などは,日常の嚥下頻度を低下させている可能性がある.しかしながら,高齢者の日常生活の嚥下頻度を検討した報告はない.そこで今回,非拘束の嚥下回数測定デバイスを用いて,高齢者の日常生活における嚥下回数の測定を行い,加齢変化や活動性の違いと嚥下頻度の関係について検討を行った.
【対象と方法】経口摂取をしている要介護高齢者47名(83.4±8.2歳)を対象とし,測定デバイスを用いて,午後の任意の1 時間の嚥下回数を測定した.測定結果を,Ⅰ.同じ条件で測定した健常成人15 名(26.5±3.5歳)の嚥下回数との比較,Ⅱ.被験者を,障害高齢者の日常生活自立度の「準寝たきり」に該当する群と,「寝たきり」に該当する群に分類し,2 群間で嚥下回数を比較,それぞれ検討した.
【結果】Ⅰ.高齢者群と健常成人群の比較:1 時間あたりの嚥下回数の平均は,高齢者群9.0±5.4 回,健常成人群40.7±19.5 回となり,高齢者群の嚥下回数のほうが有意に少ない値を示した(p<0.0001).Ⅱ.高齢者の生活自立度での比較:両群の1 時間あたりの嚥下回数の平均は,準寝たきり群11.6±6.2 回,寝たきり群7.7±4.6 回となり,寝たきり群の嚥下回数のほうが有意に少ない値を示した(p<0.05).
【考察】高齢者の日常において,嚥下頻度の低下が生じている可能性が示された.また,高齢者において,加齢による影響だけでなく全身機能も,嚥下頻度に影響を与える可能性があることが示唆された.