日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
17 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 中田 健史, 浦川 将, 高本 考一, 堀 悦郎, 石川 亮宏, 小西 秀男, 小野 武年, 西条 寿夫
    2013 年 17 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
    ジャーナル フリー
    本研究では,口唇閉鎖訓練の効果を,脳活動・口唇機能の観点から検討した.健常女性19 名(22.1±2.9 歳)を対象に,口腔リハビリ器具を用いて,口唇閉鎖訓練を4 週間続けて行う(Training)群と同訓練を行わない(Control)群に無作為に分けた.同訓練前後で最大口唇閉鎖力を測定するとともに,口腔リハビリ器具を用いた口唇閉鎖課題および最大口唇閉鎖力50% 保持課題遂行中の脳酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)変化量を,全頭型NIRS(近赤外分光法)測定装置を用いて記録した.最大口唇閉鎖力50% 保持課題では,各被験者の最大口唇閉鎖力の50% の力を維持させた.その結果,Training 群では,最大口唇閉鎖力が増加し最大口唇閉鎖力50% 保持課題における誤差値が有意に縮小した.脳活動では,訓練前においてControl 群およびTraining 群ともに,口唇閉鎖課題時に前頭極,左右背外側前頭前野,補足運動野,および前補足運動野におけるOxy-Hb 変化量が増大した.しかし,同訓練後は,前頭極におけるOxy-Hb変化量がControl 群では増加しなかったのに対し,Training 群では増加した.以上から,口唇閉鎖訓練を継続して行うことにより,口唇閉鎖機能の向上だけでなく,前頭前野の持続的な脳賦活効果が認められた.
  • 中田 健史, 浦川 将, 高本 考一, 堀 悦郎, 小西 秀男, 小野 武年, 西条 寿夫
    2013 年 17 巻 2 号 p. 126-133
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者への口唇閉鎖訓練の効果に関して,脳波に基づく覚醒度,口腔機能,および日周リズムなど,高齢者の日常生活に結びつく項目の予備的検討を行った.

    【対象と方法】老人保健施設に入所中の高齢者5 名(82.6±2.7 歳)を対象に,口腔リハビリ器具を用いた口唇閉鎖訓練を1 日3 回,4 週間続けて行った.訓練前,2 週間後,4 週間後において,口腔機能,睡眠・覚醒パターン(日周リズム),覚醒度(前頭部脳波より算出したBIS 値),および食事動作に対する効果を解析した.

    【結果】口腔リハビリ器具を用いた口唇閉鎖運動によって運動前後において覚醒度が上昇し,4週間の口唇閉鎖訓練によって最大口唇閉鎖力と反復唾液飲み込み回数の向上が認められた.また,5 名中4 名で24 時間周期の日周リズムのパワー値が増大した.

    【考察】口唇閉鎖訓練は,口唇・嚥下機能の向上だけでなく,覚醒度向上や日周リズム形成を促進する可能性が示され,これらを制御する生理学的機構を介して高齢者のADLを向上するメカニズムが示唆された.

  • 熊澤 友紀, 鎌倉 やよい, 米田 雅彦, 深田 順子, 片岡 笑美子, 波多野 範和, 長谷川 康博
    2013 年 17 巻 2 号 p. 134-144
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
    ジャーナル フリー

    【目的】脳卒中急性期の誤嚥性肺炎発症には口腔内環境が影響するため,口腔内細菌活性化に関わる唾液中分泌型免疫グロブリンA(secretory Immunoglobulin A: sIgA)および唾液に含有される細菌DNA 量を明らかにし,誤嚥性肺炎の発症別に群分けし,比較検討を行った.

    【対象・方法】脳卒中で入院した患者13 名(年齢中央値±四分位偏差:81.0 ± 7.0 歳)を対象に,第5・7・9・11・13 病日午前10 時の安静時唾液を採取した.唾液検体からELISA 法を用いて,1 ml あたりの唾液中sIgA 量,粘膜修復作用を有する上皮成長因子(Epidermal Growth Factor: EGF)量を,real-time PCR法にて,肺炎レンサ球菌,緑膿菌および口腔内常在細菌(Streptococcus mitis:S.mitis)の細菌DNA 量を測定した.対象者を非肺炎群(5 名)と肺炎群(8 名)に分類し,両群の属性,第5・7・9 病日の唾液量,sIgA 量,およびEGF 量を統計的に比較した.各細菌DNA 量は病日ごとに,その推移を検討した.

    【結果】肺炎群は非肺炎群より第5 病日の意識レベルが低く(p<0.05),非経口摂取者が多かった(p<0.05).唾液量は,肺炎群で第7・9 病日に有意に減少し(p<0.01,p<0.05),sIgA 量は,肺炎群で第5・7・9 病日とも有意に増加した(p<0.05).肺炎レンサ球菌は,非肺炎群3 名,肺炎群4 名から検出された.肺炎群では,すべての対象者に抗生剤が投与され,4 名に緑膿菌が検出されると同時に,S.mitis と肺炎レンサ球菌は検出されないか,検出されても少量であった.

    【結論】脳卒中急性期の肺炎合併患者では,唾液量が減少し,唾液中sIgA 量が増加した.各病日のEGF 量はsIgA 量と相関した.非肺炎患者にも肺炎レンサ球菌が検出され,抗生剤が使用された肺炎患者では,同菌にかわり緑膿菌が検出された.

  • 田中 信和, 野原 幹司, 小谷 泰子, 辻 聡, 松村 雅史, 阪井 丘芳
    2013 年 17 巻 2 号 p. 145-152
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
    ジャーナル フリー

    【緒言】高齢者の嚥下障害は,加齢による影響だけでなく,廃用により修飾・助長されるといわれている.廃用は,生体の活動性や運動量の低下が続くことで生じる機能低下の総称であり,嚥下機能の廃用は,嚥下頻度の減少により生じる可能性がある.高齢者における嚥下頻度の減少を疑う例として,経口摂取を禁止された経管栄養症例,あるいは加齢や薬剤の影響による唾液分泌量の低下などは,日常の嚥下頻度を低下させている可能性がある.しかしながら,高齢者の日常生活の嚥下頻度を検討した報告はない.そこで今回,非拘束の嚥下回数測定デバイスを用いて,高齢者の日常生活における嚥下回数の測定を行い,加齢変化や活動性の違いと嚥下頻度の関係について検討を行った.

    【対象と方法】経口摂取をしている要介護高齢者47名(83.4±8.2歳)を対象とし,測定デバイスを用いて,午後の任意の1 時間の嚥下回数を測定した.測定結果を,Ⅰ.同じ条件で測定した健常成人15 名(26.5±3.5歳)の嚥下回数との比較,Ⅱ.被験者を,障害高齢者の日常生活自立度の「準寝たきり」に該当する群と,「寝たきり」に該当する群に分類し,2 群間で嚥下回数を比較,それぞれ検討した.

    【結果】Ⅰ.高齢者群と健常成人群の比較:1 時間あたりの嚥下回数の平均は,高齢者群9.0±5.4 回,健常成人群40.7±19.5 回となり,高齢者群の嚥下回数のほうが有意に少ない値を示した(p<0.0001).Ⅱ.高齢者の生活自立度での比較:両群の1 時間あたりの嚥下回数の平均は,準寝たきり群11.6±6.2 回,寝たきり群7.7±4.6 回となり,寝たきり群の嚥下回数のほうが有意に少ない値を示した(p<0.05).

    【考察】高齢者の日常において,嚥下頻度の低下が生じている可能性が示された.また,高齢者において,加齢による影響だけでなく全身機能も,嚥下頻度に影響を与える可能性があることが示唆された.

  • 梶井 友佳, 別府 茂, 秋元 幸平, 山野井 澄江, 井口 寛子, 井上 誠, 山田 好秋
    2013 年 17 巻 2 号 p. 153-163
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
    ジャーナル フリー

    要介護度にかかわらず,食べることは高齢者の楽しみのひとつにあげられるが,摂食・嚥下機能障害(以下摂食・嚥下障害)を有する在宅高齢者も多い.病院や高齢者介護施設では,専門職による摂食機能評価や検査をもとに嚥下障害の程度を判断し,口から食べる工夫を積み重ねてきた.しかし,在宅で介護を受ける摂食・嚥下障害者にとっては,介護保険による生活支援は行われているものの,その障害についての知識も乏しく,また専門職の介在も少ないため,情報発信の場を検討する必要がある.このため,在宅で生活する摂食・嚥下障害を有する高齢者の現状とニーズを調査する目的から,新潟大学医歯学総合病院に介護食品や介護食器具およびその資料を展示する「食の支援ステーション」を設置し,専門職員を配置して来訪者の相談に対応するとともに,「食の支援ステーション」の来訪者にアンケート調査を実施し,今後の課題を検討した.

    平成21 年10 月から3 年間で来訪した2,433 名のうち,アンケートに答えた相談者は370 名であった.相談者の年齢は50~70 歳代が68.4% を占め,調査時点で食事の問題を抱えている人は87.3% と非常に多かった.また,相談の対象は本人が34.2% であるのに対し,家族が59.0% と,介護者による相談が多かった.支援を必要とする内容は,咀嚼・嚥下に関する問題が多く,希望する情報も介護食に関するものが多かった.「食の支援ステーション」に対する要望としては,専門職による製品の解説が最も多く,次いで展示商品の購入の要望が多かった.以上より,在宅摂食・嚥下障害者に対する専門的な介入は重要であることが示された.自立した食事や介護者の負担軽減のために,食の支援ステーション活動としては,障害の程度に対応した介護食や介護食器具の選択ができるよう,助言や製品の説明などが重要であることが示唆された.

症例報告
  • 佐野 剛雅, 谷口 洋, 渡邉 基, 辰濃 尚, 武原 格, 安保 雅博
    2013 年 17 巻 2 号 p. 164-169
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
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    【はじめに】 延髄外側梗塞における嚥下障害では,咽頭収縮や食道入口部の開大に左右差を認めることが多い.従来,嚥下後に咽頭残留がみられた場合,非残留側に頸部を回旋し空嚥下を行って,残留の除去を試みることが推奨されている.今回われわれは,残留側に頸部回旋して空嚥下を行ったところ,残留が除去された1 例を経験したので報告する.

    【対象および経過】 症例は54 歳男性.左Horner 症候群,左顔面神経麻痺,lateropulsion,球麻痺,右顔面と右頸部以下の温痛覚障害がみられ,MRI で左延髄外側梗塞を指摘された.嚥下内視鏡検査(VE)では,声帯麻痺を認めなかった.嚥下造影検査(VF)において,食塊の下咽頭への送り込みは左側(病巣側),食道入口部は右側(健側)を通過し,ワレンベルグ症候群では下咽頭への送り込みは病巣側で,食道入口部の通過は健側が多いという,過去の報告に一致した.食塊は左梨状窩に残留したが,同残留は,右側(非残留側)へ回旋しての嚥下後回旋空嚥下では除去されなかった.左側(残留側)へ回旋しての嚥下後回旋空嚥下を施行したところ,食塊が咽頭収縮により左側から右側の梨状窩に移動して,右側の食道入口部を通過した.

    【結論】 本例は,通常と異なり,残留側に頸部を回旋することで咽頭残留を除去できた.声帯麻痺がないことが,この手法の条件と思われた.

  • 島名 由加, 森 正博
    2013 年 17 巻 2 号 p. 170-175
    発行日: 2013/08/31
    公開日: 2020/05/17
    ジャーナル フリー

    哺乳行動は,吸啜・嚥下・呼吸が協調して行われる一連の運動である.そのため,哺乳障害の病態も,吸啜だけでなく,嚥下や呼吸に障害がある場合や,これらの運動の協調に問題がある場合もある.

    今回われわれは,哺乳障害をもつ男児に,嚥下造影検査(以下,VF)と喉頭ファイバー検査を施行し,哺乳障害の病態を喉頭軟化症と喉頭麻痺によるものと診断した.さらに,摂食機能獲得のための訓練を行い,摂食機能を獲得した症例を経験したので報告する.

    症例は,妊娠経過中,出生時に異常は認められなかった.生後,哺乳力不良で肺炎を発症し,喉頭軟化症を認め,経管栄養管理となった.その後,経口哺乳を試みたが,誤嚥性肺炎を発症.生後11カ月時に,嚥下機能評価目的で当院受診となった.

    VF の結果,水様の造影剤に誤嚥が認められ,ポタージュ状にとろみをつけた造影剤では誤嚥がみられなかった.また,喉頭ファイバー検査では,喉頭軟化症はほぼ改善されていたが,喉頭麻痺がみられ,声帯の閉鎖不全が確認された.初診時,哺乳以外の成長・発達の遅れはなかった.

    本症例の哺乳障害の病態は,哺乳時に強い吸気運動が起こると,声帯の閉鎖不全のために嚥下による防御機構が間に合わず,誤嚥すると考えられた.そのため哺乳は中止し,離乳を進めることとした.また,水分摂取に関しては,ポタージュ状のとろみをつけ,スプーンから始めコップ,ストローを使用して訓練を行った.1歳10カ月には,とろみ茶をむせずにコップで飲めるようになった.次に,とろみの濃度を1/2 の濃度にして訓練をし,2歳9カ月には,とろみなしのお茶をむせることなく飲めるようになった.経過中,誤嚥性肺炎などのトラブルがなく経過したので,良好と判断した.ストロー飲みも同様に,とろみ茶から訓練を始め,3歳9カ月には声帯の閉鎖不全は軽度残存していたが,ストローで飲むことができるようになった.

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