日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
入院患者および高齢者福祉施設入所者を対象とした食事形態と舌圧,握力および歩行能力の関連について
田中 陽子中野 優子横尾 円武田 芳恵山田 香栢下 淳
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2015 年 19 巻 1 号 p. 52-62

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抄録

【目的】Quality of Life(以下,QOL)の観点から,摂食嚥下障害がある場合は,食品の形態や物性に注意し,その能力に合った食事形態を選択することは重要である.医療施設ではどの食事形態を提供するかを医療スタッフが決定しているが,専門家のいない施設や在宅においては適切な判断が行えない可能性がある.本研究では,舌圧と食事形態の関連性および握力や歩行状況と食事形態の関連について検討し,これらを測定することで,提供する食事形態の目安になるか否かを検討した.

【方法】被験者は,済生会広島病院入院患者および介護老人福祉施設はまな荘入所者のうち,調査の目的と方法の説明を受け,同意が得られた高齢者201名(男性36名,女性165名)とした.調査項目は,舌圧,握力,歩行状況,食事形態とした.

【結果】舌圧および握力は,常食を摂取している患者と比較し,形態調整した食事を摂取している患者では低い値を示した.舌圧と握力の間にも有意な正の相関を認めた.舌圧は同じ食事形態内では男女差はなかったが,握力は同じ食事形態を摂取していても,男性は女性より有意に高かった.年齢と舌圧との間に相関関係は認めなかったが,年齢と握力との間には負の相関関係を認めた.歩行能力別では,舌圧と握力ともに,歩行群が車椅子群および寝たきり群と比較して有意に高く,車椅子群は寝たきり群と比較して有意に高かった.

 以上より,舌圧および握力と食事形態の関連性が明らかとなり,食事形態決定に際して,有効な指標のひとつとなる可能性を示唆したが,握力には男女差や年齢差を認めた.このことから,年齢や性別を考慮することが必要でない舌圧が,簡便な指標として利用可能であることが示唆された.また,歩行能力も,食事形態と関連していることが示された.このことから,舌圧と歩行能力が,どのような食事形態を提供するかを判断する際の参考になることが示唆された.

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© 2015 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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