2015 年 19 巻 2 号 p. 117-126
【目的】意識障害は,正確な嚥下機能評価や訓練を妨げ,誤嚥リスクを高める原因となる.急性期病院における嚥下リハ介入例の意識障害の合併率,および意識レベルと経口摂取確立の成否との関係について調査・検討した.
【対象と方法】対象は,4 年間に嚥下リハを実施した498 名(年齢68±15 歳).嚥下リハ開始時と終了時の臨床的重症度分類(DSS)および摂食状況のレベル,Japan Coma Scale(JCS)の変化,介入期間を調べ,JCS 変化からみた経口摂取確立者数を後方視的に検討した.
【結果】開始時に意識清明は86 名(17%)のみで,412 名(83%)に意識障害を認めた.開始時JCS の内訳は,Ⅰ桁334 名,Ⅱ桁76 名,Ⅲ桁2 名だった.終了時にも71% に意識障害が残存した.JCS とDSS の相関係数は開始時-0.28(p<0.001),終了時-0.47(p<0.001)と,有意な負の相関を認めた.開始時の機会誤嚥では,終了時JCS2 以下であれば95%以上が経口摂取を確立したが,JCS3 では67%だった.水分誤嚥は機会誤嚥と同様の結果だった.食物誤嚥および唾液誤嚥ではそれぞれ45%,34%が経口摂取を確立し,終了時JCS0 では70% 以上だったが,JCS1 およびJCS2 では50% 程度,JCS3 では食物誤嚥19%,唾液誤嚥5% だった.経口摂取を確立できなかった例の71% は,開始時に食物誤嚥か唾液誤嚥で,終了時にJCS Ⅰ桁以上の意識障害が残存した例だった.
【結論】急性期病院の嚥下リハ介入例には高率に意識障害が合併し,終了時にも残存する例が多かった.JCS とDSS,摂食レベルの相関からは,意識レベルと摂食嚥下機能の改善が関連することが示された.開始時の嚥下障害重症度によって,意識レベルの改善度が経口摂取確立の成否に与える影響が異なることが示唆された.継時的なJCS 評価は,意識障害の改善を判定するだけでなく,嚥下リハの訓練効果を予測するうえでも重要だと考えられた.