日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
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症例報告
深頚部膿瘍・降下性縦隔炎罹患後の重度嚥下障害:頚部のマッサージと舌骨・喉頭の他動運動が著効を奏した1 例
佐藤 豊展加藤 健吾平野 愛近藤 健男柴本 勇香取 幸夫出江 紳一
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2016 年 20 巻 3 号 p. 156-162

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抄録

【はじめに】深頚部膿瘍後に嚥下障害が起こること,病態,原因についての報告は散見されるが,嚥下リハビリテーションについて詳細な報告は乏しい.今回,深頚部膿瘍・降下性縦隔炎罹患後に重度の嚥下障害を呈したが,頚部のマッサージと舌骨・喉頭の他動運動が嚥下機能の改善に有効と考えられた1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

【症例】63 歳男性.201X 年Y 月より咽頭痛,頚部腫脹を認めた.CT で左扁桃,副咽頭間隙,咀嚼筋間隙,耳下腺間隙,舌骨周囲に及ぶガス像を伴った深頚部膿瘍を認めた.即日,左口蓋扁桃摘出術,左頚部膿瘍切開排膿術が施行された.壊死組織のデブリードメントの際,顎二腹筋後腹,茎突舌骨筋の一部が切除された.18 病日のCT で,咽後間隙の膿瘍残存,ならびに上縦隔への膿瘍進展を認め,切開排膿術が再施行された.抗菌薬による加療が行われ,51 病日より嚥下訓練を開始した.

【経過】舌の筋力低下,左顔面神経下顎縁枝の部分麻痺,開口制限を認めた.頚部は瘢痕拘縮しており,喉頭挙上に制限を認めた.85 病日の嚥下造影検査で重度の喉頭挙上不全,食道入口部開大不全を認めた.安全条件は設定できなかった.舌骨・喉頭の可動範囲の低下に対し,舌骨上筋群・舌骨下筋群の徒手的マッサージ,舌骨・喉頭の他動運動を行った.114 病日の嚥下造影検査で喉頭挙上,食道入口部の開大に改善を認めた.舌骨の移動距離を85病日時と比較したところ,前方移動距離が2.0 mmから8.6 mm,上方移動距離が3.9 mm から13.7 mm に変わった.体幹角度60 度,ペースト食から経口摂取を開始し,149 病日に軟らかい固形食が摂取可能になった.

【考察】本例の嚥下障害は,炎症や壊死組織の切除による嚥下関連筋群の瘢痕拘縮が原因と考えられた.

嚥下機能の改善は,舌骨の移動距離の増加に伴い,喉頭挙上と食道入口部の通過が改善したためだと考えられた.舌骨移動距離の増加は,他動運動から自動運動を用いて働きかけたこと,炎症消退後早期から舌骨・喉頭のマッサージと他動運動を行ったこと,が有効であったと推察された.

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© 2016 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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