日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
20 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • ―吸気相嚥下の要因について―
    髙木 聡, 板倉 潮人, 宮川 哲夫
    2016 年20 巻3 号 p. 114-123
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,慢性呼吸器疾患患者を対象に呼吸と嚥下の調整に関するスクリーニングテストを実施し,誤嚥の要因とされる吸気相嚥下の発生頻度と,呼吸機能,および呼吸器疾患の予後因子でもある痩せの関連性を調査することを目的とした.

    【研究方法】COPD 6 例,間質性肺炎9 例,気管支拡張症5 例を含む20 例の慢性呼吸器疾患患者に対して唾液(30 秒間),水(10 ml×5),ゼリー(5 g×5)の嚥下テストを実施した.呼吸運動検出に気流圧センサーと胸腹部インダクティブセンサーを,嚥下音検出のために咽喉マイクを使用し,嚥下は嚥下性無呼吸期間に起こる嚥下音で確認した.呼気相に挟まれた嚥下を呼気相嚥下,それ以外を吸気相嚥下とした.吸気相嚥下の回数と痩せ,また吸気相嚥下の頻度と呼吸機能の関係について調査した.

    【結果】唾液,および水嚥下において吸気相嚥下は痩せと関係していた(唾液:p<0.05,水:p<0.01).また水嚥下において,TV は吸気相嚥下と関係していた(p<0.05).痩せ群では筋量(AMC:p<0.01,推定SMI:p<0.001),呼吸機能(IC:p<0.01)は有意に低く,筋力(握力)および運動耐容能(6MWD)は低値を示した.

    【考察】慢性呼吸器疾患患者では,吸気相嚥下が高率に起こるが,その頻度は特に痩せ群において有意に高く,サルコぺニアが疑われるような痩せが吸気相嚥下の一要因である可能性が示唆された

  • 黒木 はるか, 池嵜 寛人, 清永 紗知, 大道 奈央, 蓑田 健太, 立野 伸一
    2016 年20 巻3 号 p. 124-131
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】小児の急性脳疾患では,急性期における原因疾患への治療が終了しても嚥下障害が残存する場合がある.そこで,本研究では,このような急性脳疾患を発症し後天的に嚥下障害を呈した小児において,初回評価時の所見から急性期の治療が終了した時点での嚥下リハビリテーションを継続する必要性の有無を予測しうる項目の抽出と当院退院1 年後の嚥下機能を調査した.

    【対象】2009 年4 月から2014 年3 月までに急性脳疾患により当院に入院し,言語聴覚士が1 週間以上介入した15 歳以下の乳児から学童以降の42 名を対象とした.

    【方法】検討方法:急性期の治療が終了した時点でカンファレンスを開催し,生活年齢相応の嚥下機能まで改善していると判断された対象を嚥下リハ終了群,嚥下障害が残存し嚥下リハビリテーションの継続が必要と判断された対象を嚥下リハ継続群とした.検討項目には,患者背景と初回評価時の所見から14 項目をあげた.なお,嚥下リハ継続群については,当院退院から1 年後の嚥下障害の有無も追跡調査を行った.解析方法:グループ間の比較には対応のないt 検定,カテゴリデータの比較にはカイ二乗検定,フィッシャーの正確確率検定を用いた.急性期の治療を終了した時点での嚥下機能に影響する項目の検討には,名義ロジスティック回帰分析を行った.

    【結果】嚥下リハ終了群26 名,嚥下リハ継続群16 名であった.急性期の治療を終了した時点での嚥下機能に影響する項目として,GCS 中等症・重症,呼吸器疾患合併,発症前精神発達遅滞・発達障害,湿性咳嗽・むせの4 項目が予測因子として抽出された.嚥下リハ継続群の75.0% は退院1 年後に嚥下障害が軽快していた.

    【結論】急性期病院退院時の嚥下機能を予測する因子として,4項目が重要であった.嚥下障害が残存した場合でも,嚥下リハビリテーションを継続することで嚥下機能の改善が認められた.

  • 小林 莉子, 松山 美和, 大田 春菜, 渡辺 朱理
    2016 年20 巻3 号 p. 132-139
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】 わが国の高齢化率は上昇を続けており,高齢者の健康寿命への関心も高い.特に食事は楽しみの一つであり,QOL の向上につながる重要因子とされている.咀嚼や嚥下機能が低下すると摂取する食品が制限され,食品嗜好へ影響を与えることが懸念される.しかし,咀嚼機能や嚥下機能など口腔機能と,食品嗜好との関係に着目した研究はみられない.そこで,本研究は,高齢者の咀嚼および嚥下機能と食品嗜好との関連性を明らかにすることを目的とした.

    【対象】 徳島大学病院歯科衛生室の65 歳以上の外来受診患者40 名(高齢者群)と,徳島大学歯学部口腔保健学科学生25 名(若年者群)を対象とした.

    【方法】 対象者の口腔内状況を確認し,平井らの摂取可能食品質問票の食品35 品目を用いて,食品嗜好スコア(好き/ 嫌い),咀嚼スコア(噛める/ 噛めない),嚥下スコア(飲み込める/ 飲み込めない)に関するアンケートを行い,口腔機能として咀嚼機能はガム咀嚼,前述の咀嚼スコア,嚥下機能は30 秒間の唾液嚥下回数,最大舌圧,水飲みテスト,前述の嚥下スコアを測定し評価した.高齢者群と若年者群の各パラメータにおける2 群間比較を行い,各群における口腔機能と食品嗜好との相関関係を求めて比較した.さらに,食品嗜好スコアと年齢および口腔機能との間における交絡要因の影響を排除するために,ステップワイズ重回帰分散分析を行った.

    【結果・考察】 高齢者群のみに30 秒間の唾液嚥下回数と食品嗜好スコアとの間に正の相関が認められた.さらに,多変量解析により,高齢者群のみに嚥下スコアと食品嗜好に,30 秒間の唾液嚥下回数と食品嗜好スコアに正の相関が認められた.高齢者の食品嗜好には,年齢ではなく嚥下機能が影響する可能性が考えられた.

    【結論】 高齢者の口腔機能,特に嚥下機能と食品嗜好には関連性があることが示唆された.

  • 横山 明子, 上羽 瑠美, 岡田 美紀, 井口 はるひ, 兼岡 麻子, 荻野 亜希子, 七里 朋子, 二藤 隆春, 若尾 邦江
    2016 年20 巻3 号 p. 140-148
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    嚥下障害患者が水分を摂取する際,とろみを付けることで,誤嚥の危険を軽減させうる.当院では2014 年より,患者に対するとろみ付加の指導用パンフレットを作成し,導入した.本研究では,パンフレットを用いたとろみ付加の指導による患者の意欲や理解への影響,および有効性を確認することを目的に,指導前後にアンケートによる調査を行った.さらに,とろみ調整食品に関して,患者が重視する点を調査し,今後の課題を検証した.

    調査の結果,パンフレットによる指導は,患者の知識と意欲の向上につながり,効果的であった.患者がとろみ調整食品を選択する際に重視することは,「溶かしやすさ」「医療従事者からの紹介」「味の変化の少なさ」であった.患者が安全に適切な粘性でとろみの調整ができるように,医療従事者は,正しい知識に基づいた患者指導を行うことが必要である.

症例報告
  • 三串 伸哉, 吉田 良子, 林 加奈子, 野上 沙耶香, 久松 徳子, 前田 耕太郎, 鮎瀬 卓郎
    2016 年20 巻3 号 p. 149-155
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    初診時71 歳,男性.62 歳時に中咽頭癌に対し中咽頭部分切除術,喉頭水平半切除術,両側頚部郭清術,気管切開術が行われ,追加で化学放射線療法が施行された.術後腫瘍の再発は認めなかったが,肺炎,低栄養,脱水を繰り返していた.71 歳時夏,誤嚥性肺炎による入院を機会に摂食嚥下リハビリテーションの介入を開始した.

    入院経過: 第3 病日に嚥下内視鏡検査,第5 病日に嚥下造影検査を実施した.喉頭閉鎖不全および咽頭収縮不全があり,不顕性誤嚥を認めた.リクライニング位および側臥位にてペースト食(嚥下調整食2-1)から食事を開始し,息こらえ嚥下の指導を行った.息こらえ嚥下の習得につれて座位での摂取に移行できた.第19 病日に施行した嚥下造影検査では息こらえ嚥下で代償的に誤嚥防止が出来ており,食形態は全粥,刻み食(嚥下調整食4),水分のとろみ不要とし21 病日に自宅退院となった.退院後は肺炎を起こさず1 年を経過した.中咽頭癌に対する喉頭水平切除術は喉頭閉鎖不全による誤嚥が問題となる.本症例では,息こらえ嚥下を利用することで誤嚥を防止し,良好な経過が得られた.喉頭水平切除術を行う患者に対しては息こらえ嚥下の習得が有効と考えた.

  • 佐藤 豊展, 加藤 健吾, 平野 愛, 近藤 健男, 柴本 勇, 香取 幸夫, 出江 紳一
    2016 年20 巻3 号 p. 156-162
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【はじめに】深頚部膿瘍後に嚥下障害が起こること,病態,原因についての報告は散見されるが,嚥下リハビリテーションについて詳細な報告は乏しい.今回,深頚部膿瘍・降下性縦隔炎罹患後に重度の嚥下障害を呈したが,頚部のマッサージと舌骨・喉頭の他動運動が嚥下機能の改善に有効と考えられた1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

    【症例】63 歳男性.201X 年Y 月より咽頭痛,頚部腫脹を認めた.CT で左扁桃,副咽頭間隙,咀嚼筋間隙,耳下腺間隙,舌骨周囲に及ぶガス像を伴った深頚部膿瘍を認めた.即日,左口蓋扁桃摘出術,左頚部膿瘍切開排膿術が施行された.壊死組織のデブリードメントの際,顎二腹筋後腹,茎突舌骨筋の一部が切除された.18 病日のCT で,咽後間隙の膿瘍残存,ならびに上縦隔への膿瘍進展を認め,切開排膿術が再施行された.抗菌薬による加療が行われ,51 病日より嚥下訓練を開始した.

    【経過】舌の筋力低下,左顔面神経下顎縁枝の部分麻痺,開口制限を認めた.頚部は瘢痕拘縮しており,喉頭挙上に制限を認めた.85 病日の嚥下造影検査で重度の喉頭挙上不全,食道入口部開大不全を認めた.安全条件は設定できなかった.舌骨・喉頭の可動範囲の低下に対し,舌骨上筋群・舌骨下筋群の徒手的マッサージ,舌骨・喉頭の他動運動を行った.114 病日の嚥下造影検査で喉頭挙上,食道入口部の開大に改善を認めた.舌骨の移動距離を85病日時と比較したところ,前方移動距離が2.0 mmから8.6 mm,上方移動距離が3.9 mm から13.7 mm に変わった.体幹角度60 度,ペースト食から経口摂取を開始し,149 病日に軟らかい固形食が摂取可能になった.

    【考察】本例の嚥下障害は,炎症や壊死組織の切除による嚥下関連筋群の瘢痕拘縮が原因と考えられた.

    嚥下機能の改善は,舌骨の移動距離の増加に伴い,喉頭挙上と食道入口部の通過が改善したためだと考えられた.舌骨移動距離の増加は,他動運動から自動運動を用いて働きかけたこと,炎症消退後早期から舌骨・喉頭のマッサージと他動運動を行ったこと,が有効であったと推察された.

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