日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
食思不振改善のため処方されたスルピリドの中止により嚥下障害が改善した1 症例
森田 達中澤 悠里谷口 裕重
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 27 巻 1 号 p. 69-74

詳細
抄録

 【緒言】抗精神病薬であるスルピリドは低用量で胃薬や抗うつ薬として用いられ,食思不振の改善のため処方されることもある.一方,スルピリドの副作用で嚥下障害を生じる報告があるが,投与量と嚥下障害の関係性については明らかではない.今回,高齢者に対し食思不振の改善のためスルピリド150 mg/日が処方され,薬剤性嚥下障害を生じた1 例を経験した.

 【症例】88 歳,男性.右後頭葉心原性脳梗塞後のリハビリテーションのため当院へ転院となった.転院 1日目の嚥下スクリーニング検査では反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST):3回,改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test: MWST):5(とろみなし)で嚥下機能は異常なしと判断した.転院21 日目に発熱を認め,嚥下困難の訴えがあった.咳テストでは咳を認めず,嚥下内視鏡検査(Videoendoscopic examination of swallowing: VE)所見で唾液の喉頭侵入を認めた.嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing: VF)所見で咽頭クリアランス低下,不顕性誤嚥を認めた.急性期病院より処方が継続されていたスルピリドによる薬剤性嚥下障害を疑い,スルピリドによる利点,欠点を検討したうえで投与を中止したところ,2 週間後の咳テストは10 秒で咳を認め,VE, VF で嚥下機能の改善を認めた.

 【結論】スルピリドは低用量の投与であっても薬剤性嚥下障害を生じ,副作用として不顕性誤嚥を生じる場合があるため,咳テストの実施や,VE, VF で診断する必要がある.

著者関連情報
© 2023 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
前の記事 次の記事
feedback
Top