日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
27 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 吉岡 昌美, 中江 弘美, 篠原 千尋, 十川 悠香, 福井 誠, 日野出 大輔, 中野 雅徳
    2023 年 27 巻 1 号 p. 16-24
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     要介護高齢者の口腔機能低下やそれに伴う食形態の制限は,低栄養や免疫機能低下を通じて発熱や肺炎の発症リスクを上昇させると考えられる.本研究では,経口摂取が可能な施設入所要介護高齢者を対象に,「口腔ケア支援簡易版アセスメントシート」を用いた約1 年半のコホート調査を行い,その間の37.5℃以上の発熱とベースラインの口腔アセスメント結果との関連性について調べ,発熱発生に関連する要因を明らかにすることを目的とした.1 年間の発熱の有無が確定できた259 名を対象に分析した結果,1年間の発熱有無と主食形態,開口困難,舌の前突困難,飲み込みにくさ,口腔ケア自発性なし,開口保持困難,水分保持困難との間に有意な関連を認めた.さらに,観察期間を限定せずデータが得られた279 名を対象にこれらの項目と発熱発生との関連性について分析した結果,年齢,性別,BMI, 認知症自立度で調整しても開口困難,舌の前突困難,飲み込みにくさ,口腔ケア自発性なし,開口保持困難,水分保持困難との間に有意な関連性が認められた.また,年齢が高いほど,BMI が低いほど発熱リスクは高く,女性に比べて男性で発熱リスクが高いことも明らかとなった.以上のことから,開口,舌の前突,飲み込み,水分保持などに関する口腔機能の低下が,発熱リスクの予測因子となりうる可能性が示唆された.

  • 川西 順子, 元根 正晴
    2023 年 27 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     【目的】口腔筋機能療法(以下,MFT)において舌を挙上させて舌背辺縁を口蓋周囲に密着させながら口を開け,ポンと音をたてるというポッピング訓練があるが,ポッピング訓練実施による舌圧の増加やそれに関連する口腔機能の改善についての有効性については明らかにされていない.本研究では,健常成人においてポッピング訓練と舌の口蓋への押し付け訓練による舌圧の増加等の口腔機能改善についての有効性を評価した.

     【方法】健常成人24 名をポッピング訓練群と舌の口蓋への押し付け訓練群に無作為に振り分けた.30 回/1 日,週5 回× 4 週間の訓練を行った.口腔湿潤度,舌圧,咀嚼能力,オーラルディアドコキネシス(以下,ODK)/pa/,/ta/,/ka/ について評価した.

     【結果】舌圧,咀嚼能力,ODK /pa/,/ta/,/ka/ で両群共に訓練前後で有意な差がみられた(p<0.05).訓練前後の変化量の比較では,両群に有意な差はみられなかった.

     【結論】MFT 訓練のひとつであるポッピング訓練は,舌の口蓋への押し付け訓練と同じく舌圧の増加のみならず,咀嚼能力およびODK の改善にも繋がることが示唆された.

  • 田中 厚吏, 石﨑 直彦, 宮地 隆史, 栢下 淳
    2023 年 27 巻 1 号 p. 34-43
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     【目的】神経筋疾患患者の嚥下造影検査を後方視的に調査し,ゼリー・とろみ付き液体における物性の差異による誤嚥や咽頭残留との関連を調査した.

     【方法】対象者は,嚥下造影検査(VF)を実施した神経筋疾患患者で診療録から後方視的に調査した.調査項目は基本情報としてVF 実施時点の年齢,身長,体重,BMI,摂食状況,食事形態を調査した.VF 側面像から固さ5,000 N/m2 および8,500 N/m2 の異なるゼリー,薄いとろみ(粘度116.6 mPa・s)および中間のとろみ(粘度276.8 mPa・s)の検査食を用い,誤嚥の有無,咽頭残留の有無を調査した.統計解析は,検査食の誤嚥・咽頭残留の比較にはχ2検定,Fisher の正確確率検定を用いた.また,誤嚥・咽頭残留の有無における年齢・BMI の比較にはt 検定を用いた.

     【結果】期間中にVF を実施した65 名(男性:28 名,女性:37 名)を解析対象とした.誤嚥は検査食間で有意な差は認めなかった.喉頭蓋谷残留は,ゼリー5,000 N/m2 に比べ薄いとろみのほうが有意に少なく(p<0.05),ゼリー8,500 N/m2 では,中間のとろみおよび薄いとろみのほうが有意に残留が少なかった(p<0.05,p<0.01).梨状窩残留は,ゼリー5,000 N/m2 に比べ,薄いとろみのほうが有意に少なかったが(p<0.05),その他の物性間で差はみられなかった.

     【結論】神経筋疾患患者における食品物性の違いによる誤嚥・咽頭残留との関連を調査した結果,咽頭残留の観点からは薄いとろみ程度の液体が適切である可能性が示唆された.

  • 芦田 かなえ, 藤谷 順子, 本川 佳子, 坪川 操, 西村 一弘, 藤原 恵子
    2023 年 27 巻 1 号 p. 44-52
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     嚥下調整食においても主食は欠かせないものであるが,粥の調理や粥をミキサーにかける調理には手間と時間を要する.本研究では,米粉を用いることで嚥下調整食の主食調理の簡便化を図ることを目的として,通常の米よりも澱粉中のアミロース含有率の高い高アミロース米の米粉を用いて,嚥下調整食の主食の調理を試みた.高アミロース米粉を用いた場合,IH 電磁調理器あるいは電子レンジを用いた場合でも,嚥下食に適する物性を示す軟らかく滑らかな粥ゼリーの調理が可能であった.一方,一般品種の米粉はゼリー状にはならなかった.ゲル形成のための冷却時間を1.5 時間にしても16 時間にしても,出来上がった粥ゼリーの物性は同等であった.調理した粥ゼリーは,再加熱すると軟らかくなったが,24℃下あるいは45℃下で3 時間の間安定的に嚥下食に適合する物性を示した.以上から,高アミロース米粉を用いることで,嚥下食に適する物性を示す粥ゼリーが簡便に調理できる可能性が示された.

短報
  • ~サルコペニア・嚥下関連筋のサルコペニア・口腔機能・栄養状態との関連~
    松原 慶吾, 水本 豪, 古賀 和美, 池嵜 寛人, 平江 満充帆, 兒玉 成博, 畑添 涼, 小薗 真知子, 元田 真一
    2023 年 27 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     【目的】健常高齢者における摂食嚥下機能のフレイルは老人性嚥下機能低下(以下,老嚥)と呼ばれる.摂食嚥下器官の加齢変化には性差があることから,老嚥の特徴は男女間で異なることが予想される.本研究では,地域在住高齢者を対象に,老嚥が疑われる高齢者と嚥下機能が良好な高齢者の症状およびサルコペニア・嚥下関連筋のサルコペニア・口腔機能・栄養状態の比較を行い,老嚥の特徴を男女別に検討した.

     【方法】地域に在住する高齢者64 例を対象とした.摂食嚥下機能の評価にはEating Assessment Tool-10(以下,EAT-10)を用い,嚥下機能良好群と老嚥が疑われた老嚥群に分けた.サルコペニアの評価には,骨格筋指数,握力,最大歩行速度を測定し,嚥下関連筋のサルコペニアの評価には,オトガイ舌骨筋の筋量,最大舌圧を測定した.さらに,口腔機能は基本チェックリストを用い,栄養状態はMNA®-SF を用いて調査した.男女別に2 群間のサルコペニア,嚥下関連筋のサルコペニア,口腔機能,栄養状態について比較検討した.

     【結果】解析対象は,61 例(78.6±7.3 歳,男性16 例,女性45 例)とし,高齢者の23.0% に老嚥が疑われた.男性老嚥群は嚥下機能良好群と比べて,EAT-10の「食べる時に咳が出る」で有意差を認め,低骨格筋量と低舌圧の有無の割合,最大歩行速度,オトガイ舌骨筋の筋量に有意差を認めた.女性老嚥群は嚥下機能良好群と比べて,EAT-10の「飲み込みの問題が原因で体重が減少した」,「食べる時に咳が出る」の2 つの質問項目で有意差を認めた.また,口腔機能,口腔乾燥,MNA®-SF の体重減少で有意差を認めた.

     【結論】高齢者の23.0%に老嚥が疑われた.老嚥の疑われる高齢者にみられる症状は男女ともに「食事中の咳の増加」であった.しかし,それを引き起こしている摂食嚥下機能の低下の機序は男女間で異なる可能性が示唆された.

  • ―ミューチュアル・アクションリサーチの手法を用いた取り組み―
    端 千づる, 村田 美穂, 堀 拓也, 畑 菜都希, 岡本 智子, 青木 未来, 四谷 淳子
    2023 年 27 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     【目的】本研究は,A 県内の1 つのグループホームで研究者と現場の実践者が協働し,良い食支援の実現に取り組んだ実践研究である.その取り組みにおいて,実践者と研究者からなるチーム全体に生じた思いと行動の変化を明らかにすることが研究目的である.

     【方法】ミューチュアル・アクションリサーチの手法を用い,グループホームの介護職員3 名と研究者で研究チームを結成し,「施設でのより良い食支援」を主題に意見交換と対話を重ねた.より良い食支援を目指す“ 願い” を明らかにし,“ 願い” に沿った食支援を実現するために,実現可能な行動を計画し実践した.研究参加時の半構成的面接と3 回の話し合いの逐語録,「振り返り記録」,参与観察より得られた情報を分析対象とし,介護職員の食支援に対する思いと行動の変化に注目して記述し,分析した.

     【結果】研究参加者は“ 願い” を実現する過程で,研究者と研究協力者の思いや行動の変化は,「研究者と研究協力者が食事に対する個々の考えや思いについて話し合い合意する」「“ 願い” を明らかにすることによって共通認識をもつ」「自ら考え実践に向けて動く」という3 つの局面を経て変化していた.

     【結論】グループホームの介護職員と共に食支援の課題の解決に向けた取り組みを行う中で,研究協力者の思いと行動の変化が明らかになった.ミューチュアル・アクションリサーチを用いた取り組みは,現場の課題を解決し,変化をもたらす可能性がある.

症例報告
  • 森田 達, 中澤 悠里, 谷口 裕重
    2023 年 27 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     【緒言】抗精神病薬であるスルピリドは低用量で胃薬や抗うつ薬として用いられ,食思不振の改善のため処方されることもある.一方,スルピリドの副作用で嚥下障害を生じる報告があるが,投与量と嚥下障害の関係性については明らかではない.今回,高齢者に対し食思不振の改善のためスルピリド150 mg/日が処方され,薬剤性嚥下障害を生じた1 例を経験した.

     【症例】88 歳,男性.右後頭葉心原性脳梗塞後のリハビリテーションのため当院へ転院となった.転院 1日目の嚥下スクリーニング検査では反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST):3回,改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test: MWST):5(とろみなし)で嚥下機能は異常なしと判断した.転院21 日目に発熱を認め,嚥下困難の訴えがあった.咳テストでは咳を認めず,嚥下内視鏡検査(Videoendoscopic examination of swallowing: VE)所見で唾液の喉頭侵入を認めた.嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing: VF)所見で咽頭クリアランス低下,不顕性誤嚥を認めた.急性期病院より処方が継続されていたスルピリドによる薬剤性嚥下障害を疑い,スルピリドによる利点,欠点を検討したうえで投与を中止したところ,2 週間後の咳テストは10 秒で咳を認め,VE, VF で嚥下機能の改善を認めた.

     【結論】スルピリドは低用量の投与であっても薬剤性嚥下障害を生じ,副作用として不顕性誤嚥を生じる場合があるため,咳テストの実施や,VE, VF で診断する必要がある.

  • 中村 祐己, 板東 祥太
    2023 年 27 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 2023/04/30
    公開日: 2023/09/10
    ジャーナル フリー

     【症例】85 歳,女性.右側下顎歯肉癌に対して,右側下顎骨区域切除術,右側頸部郭清術,左側前外側大腿遊離皮弁とプレートによる再建術を施行ののち顎義歯を製作し,常食~軟菜食を経口摂取できていた.手術から11 カ月後,プレート周囲組織の感染が生じ,プレート除去術施行.その結果,下顎は右側に大きく偏位し,顎義歯を装着しても咬合が不可となり,これまでの食事の摂取が困難となった.また,残存する顎・舌・頬粘膜・皮弁で囲まれた下顎右側に新たに生じたスペースに食事が滞留し,口腔内の不衛生や,食事による疲労が問題となった.食形態の調整が必要と考えられたものの,患者本人はこれまでの食形態の摂取継続を希望した.そこで,口腔衛生状態の改善,食事による疲労の軽減を目的に顎義歯の形態を修正した結果,スペースへの食渣の滞留を減少させ,口腔衛生状態の改善,食事による疲労の軽減を認めた.顎義歯の形態修正により,下顎の偏位に伴う食べる機能の低下を器質的・機能的に補うことができた.

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