日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
倫理的ジレンマが生じた重度嚥下障害患者への対応
―人生の最終段階における方針決定―
栄元 一記南都 智紀梅地 篤史若杉 樹史福永 景子笹沼 直樹内山 侑紀道免 和久
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2024 年 28 巻 3 号 p. 169-175

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抄録

症例は 22歳男性, T細胞性急性リンパ性白血病の患者である.原疾患の度重なる再発により,生命予後は不良であった.さらに脊髄炎の影響により唾液誤嚥レベルの重度の嚥下障害を認めた.経口摂取を行うには誤嚥性肺炎のリスクが高い状況であったが,ご本人や家族が経口摂取を強く希望し,倫理的ジレンマが生じた.そこで,主治医や看護師と相談し,分割表による検討を行い,経口摂取を行う方針とした.経口摂取時は,誤嚥性肺炎のリスクを低減させるために,対応方法の統一( ①実施前後の口腔ケア,②吸引の徹底,③代償的アプローチ,④リスク管理)を行った.お楽しみレベルの経口摂取が,本症例の精神状態に及ぼす影響を Profiled of Mood Statesを用いて評価した結果,「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」の項目で改善を認めた.また経口摂取時の対応方法を統一した結果,死亡退院となるまでの 2か月の間に明らかな誤嚥性肺炎の指摘はなかった.本症例では,分割表を用いた方針の検討や,経口摂取時の対応方法を統一したことが,人生の最終段階における有用な関わりと考えられたため,若干の文献的考察とともに報告する.

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© 2024 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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