2001 年 5 巻 1 号 p. 49-56
延髄にAstrocytomaを生じ,腫瘍摘出後嚥下障害を生じた小児摂食・嚥下障害患者に対して嚥下造影検査(VF検査と略す)により食形態,嚥下方法,訓練方法を決定した症例を経験した.
症例:平成4年12月19日生まれ,初診時年齢5歳6か月,女児.1歳4か月で歩行不可,嚥下障害,呼吸障害を生じたため某小児科を受診し,CT・MRI上にて延髄に腫瘍を認めた.1歳4か月時に腫瘍摘出術を施行された.術後,声帯麻痺を生じ気管切開術が行われ,スピーチカニューレの使用により発語は可能になった.粗大運動は独歩可能であった.経口摂取を試みたが誤嚥性肺炎を繰り返したため経口摂取は禁止となった.患児および両親の経口摂取の希望が強いため嚥下機能の精査依頼で,5歳6か月時に,本学歯学部附属病院摂食指導外来に来院し,同日に嚥下造影検査を施行した.
検査の結果,誤嚥を生じない食形態と嚥下法は,ゼラチンゼリーの顎引き嚥下であった.本症例に知的障害はなく指示に従えるため,直接訓練法としてゼラチンゼリーの顎引き嚥下とsupraglottic swallowを指導した.supraglottic swallowは,直接訓練法として用いたゼラチンゼリーを誤嚥せずに嚥下しているかどうか確認したいと母親が強く希望したためと排痰能力の強化のために行った.実際の訓練指導はVF検査にも同伴した入院先の言語聴覚士が行った.1年後のVF検査での再評価で,ゼラチンゼリーと中粘度のとろみをつけた検査食品に関しては顎引き嚥下を行わずに安全に嚥下することが可能となった.また排痰能力の強化も認められた.造影剤単独,低粘度のとろみのついた検査食品に関しては誤嚥が認められ,基本的な栄養摂取は引き続き経鼻経管栄養に依存しなければならない結果となった.