日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下時口唇圧と最大口唇圧との関連
―高齢者と成人との比較―
冨田 かをり岡野 哲子田村 文誉向井 美惠
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2002 年 6 巻 1 号 p. 19-26

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抄録

摂食・嚥下機能を営む上で,口唇の果たす役割は大変重要である.発達期における捕食時口唇圧は摂食・嚥下機能を獲得するにしたがい増加することが知られており,摂食・嚥下機能の客観的評価基準として捉えられている.しかしながら,減退期における機能時の垂直性口唇圧に関する研究は著者の知る限り見られない.そこで著者らは,摂食・嚥下機能減退期における口唇圧の変化を明らかにする目的で,本研究を行った.対象は,成人12名(男性6名,平均年齢28.5歳および女性6名,平均年齢23歳)と高齢者10名(男性5名,平均年齢74.8歳および女性5名,平均年齢75.2歳)である.厚さ2mmのプラスチック平面版の口角部および口唇中央部の2ヵ所に圧力センサを埋め込み,最大口唇圧(最大努力下での口唇閉鎖圧)と嚥下時口唇圧を測定した.その結果について成人および高齢者で比較検討したところ,以下のような知見が得られた.

1)成人と高齢者を比較して嚥下時の口唇圧に有意差は認められなかった.

2)成人と比較して高齢者では最大口唇圧が有意に低かった.

3)成人と比較して高齢者では予備力(最大口唇圧と嚥下時口唇圧の差)の低下が顕著に認められた.

4)成人と比較して高齢者では嚥下時の口唇圧作用時間が有意に長かった.

5)成人と高齢者を比較して嚥下時の口唇圧積分値に有意差は認められなかった.

 本研究で対象とした健康な高齢者においては,嚥下時の口唇圧は成人と同程度に保たれていたものの,予備力の低下や口唇圧作用時間の延長が認められたことから,口唇機能は生理的な加齢の影響をうけることが示唆された.

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© 2002 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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