咀嚼運動は顎運動のみならず舌,頬,ロ唇などの器官が協調してなされる運動である.本研究では,顎と舌の協調運動の解明を目的に,超音波診断装置より得られる咀嚼時の前額断舌運動動態と,3次元下顎運動動態を同期させる方法の検討を行ない,顎と舌の協調運動のパターン分類,および定量的な動的関連性の解明を試みた.これらによって,以下の知見を得た.
1.咀嚼時の前額断面舌背描出の際,Mカーソルの傾斜角度を各個人の下顎形態から求める事によって,舌側方部の舌動態解析が解明可能となり,下顎運動との同時解析に有用である事が示唆された.
2.顎と舌の協調運動動態は,その特徴から4パターンに分類することができた.顎と舌が反対の動きを呈するものを逆転型,連動の動きを呈するものを連動型,逆転型と連動型が交互に出現するものを混合型,顎と舌の運動に関連性がないものをその他とした.
3.顎と舌の運動パターンの発現頻度を検討したところ,逆転型が占める割合が多かった.また,咀嚼初期では作業側と平衡側のパターン分布比率に有意差が認められた.
4.習慣性による違いは,嚥下前作業側において習慣性と非習慣性のパターン分布比率に有意差が認められた.嚥下前を検討してみると,習慣性の作業側と非習慣性の平衡側,非習慣性の作業側と習慣性の平衡側が同様な分布を示す傾向が認められた.また,男女差によるパターン分布の違いは,咀嚼初期の作業側において有意差が認められた.
5.舌の移動距離をもとに距離の大グループと小グループを分けたところ,顎の移動距離においても大グループと小グループ間で差がみられた.顎の垂直的移動距離と舌の移動距離は相関性が見られたが,パターン分類の連動型と混合型は,顎の移動距離に関わらず,舌の移動距離が小さかった.
以上より,本解析方法を用いて咀嚼時の顎と舌の協調運動動態を解析し,パターン分類を用いる事でその運動動態の特徴を観察,評価する事の可能性が示唆された.
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