日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
6 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 大熊 るり, 藤島 一郎, 小島 千枝子, 北條 京子, 武原 格, 本橋 豊
    2002 年6 巻1 号 p. 3-8
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害を効率よくスクリーニングでき,かつ日常の臨床場面で簡便に使用できる質問紙を作成する.【質問紙】質問紙は15項目からなり,肺炎の既往,栄養状態,口腔・咽頭・食道機能,声門防御機構などが反映される構造で,「A:重い症状」「B:軽い症状」「C:症状なし」の三段階で回答するようになっている.【対象と方法】①繰り返し記入による信頼性の検討:同一被験者84名(平均年齢56歳)に1週間以上の間隔をおいて2回質問紙に記入してもらい,1回目と2回目の回答を比較し,信頼性について検討した.②特異度,敏感度の検討:嚥下障害があるが経口摂取が可能なレベルの脳血管障害患者50名(嚥下障害あり患者群:平均年齢69歳),嚥下障害のない脳血管障害患者145名(嚥下障害なし患者群:同69歳),および健常者群170名(同65歳)を対象として,それぞれに質問紙での評価を行った.各群で項目ごとにA,B,Cの回答を集計し,嚥下障害あり患者群とその他の群とで比較を行い,特異度,敏感度を算出した.【結果】自己記入による1回目と2回目の得点の反復性は良好でCronbachのアルファ係数は0.8473と高い信頼性を示した.嚥下障害あり患者群50名のうち46名(92.0%)が,いずれかの項目にAの回答をしていた.また嚥下障害なし患者群および健常者群の計315名の中でAの回答があったのは31名(9.8%)のみであった.以上の結果をふまえ「Aの回答あり」を嚥下障害ありと考えることとして本質問紙の嚥下障害検出の特異度と敏感度を計算したところ,特異度=90.1%,敏感度=92%,偽陽性率=9.9%,偽陰性率=8%となった.【結語】今回作成した質問紙は高い信頼性,敏感度,特異度を有していた.本質問紙は簡便であり,様々な集団に対する摂食・嚥下障害のスクリーニングに有用であると思われる.

  • 原 明美, 大塚 義顕, 向井 美惠
    2002 年6 巻1 号 p. 9-18
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的: 摂食・嚥下障害をもつ患者にとって,口からおいしく安全に食事をとるということは重要な課題である.したがって,口腔機能に合った食内容の提供は重要であると考えられ,機能および食物物性の評価,そして両者を総合して評価することは必要不可欠であると考えられる.我々は,新しい食塊の観察および評価方法として,超音波ドプラ法を用いた食塊移送の規格化検査法を考案し,既に報告した.本研究では,本検査法における物性の異なる食品を用いた場合の食塊移送の評価の有効性について検討を行った.

    方法: 対象者は健康成人男性11名とし,物性の異なる3種の食品を用い,その他の描出条件および解析方法はすべて我々の考案した超音波ドプラ規格化検査法に準じて検査を行った.測定項目は,最高速度,流入時間,最高速度到達時間,平均加速度とした.また,各被験食品に対し,あらかじめ物性試験を行い,かたさ応力,付着性,凝集性をテクスチャー解析から,粘性率,弾性率をクリープ解析から,さらに,みかけの粘度およびずり応力を流動解析から求めた.

    結果: 今回の被験者から得られた値は,個人内変動係数が小さく,食塊移送の評価に耐え得る数値であると考えられた.4つの測定項目のうち,物性の違いによる値の違いが最も明らかな傾向として表れたのは,最高速度であった.しかし,平均加速度,流入時間,最高速度到達時間の順に物性の違いとの傾向が表れにくいことが判明した.また,物性試験の結果を考慮すると,付着性は最高速度や平均加速度に,粘性率は流入時間にそれぞれ影響を及ぼす可能性が考えられた.

    以上の結果から,本検査法は物性の違いに対応した食塊移送の様相の違いを設定した指標により示すことが可能であると考えられた.特に本検査法は,時間的項目よりも速度に対して,物性に対応した検出力が高い可能性が示唆された.今後さらに,対象者の幅を広げ,描出条件について改良を加えることで,嚥下障害者用の食品物性の規準検査の一つとして発展する可能性があると考えられた.

  • ―高齢者と成人との比較―
    冨田 かをり, 岡野 哲子, 田村 文誉, 向井 美惠
    2002 年6 巻1 号 p. 19-26
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    摂食・嚥下機能を営む上で,口唇の果たす役割は大変重要である.発達期における捕食時口唇圧は摂食・嚥下機能を獲得するにしたがい増加することが知られており,摂食・嚥下機能の客観的評価基準として捉えられている.しかしながら,減退期における機能時の垂直性口唇圧に関する研究は著者の知る限り見られない.そこで著者らは,摂食・嚥下機能減退期における口唇圧の変化を明らかにする目的で,本研究を行った.対象は,成人12名(男性6名,平均年齢28.5歳および女性6名,平均年齢23歳)と高齢者10名(男性5名,平均年齢74.8歳および女性5名,平均年齢75.2歳)である.厚さ2mmのプラスチック平面版の口角部および口唇中央部の2ヵ所に圧力センサを埋め込み,最大口唇圧(最大努力下での口唇閉鎖圧)と嚥下時口唇圧を測定した.その結果について成人および高齢者で比較検討したところ,以下のような知見が得られた.

    1)成人と高齢者を比較して嚥下時の口唇圧に有意差は認められなかった.

    2)成人と比較して高齢者では最大口唇圧が有意に低かった.

    3)成人と比較して高齢者では予備力(最大口唇圧と嚥下時口唇圧の差)の低下が顕著に認められた.

    4)成人と比較して高齢者では嚥下時の口唇圧作用時間が有意に長かった.

    5)成人と高齢者を比較して嚥下時の口唇圧積分値に有意差は認められなかった.

     本研究で対象とした健康な高齢者においては,嚥下時の口唇圧は成人と同程度に保たれていたものの,予備力の低下や口唇圧作用時間の延長が認められたことから,口唇機能は生理的な加齢の影響をうけることが示唆された.

  • ―3次元顎運動と超音波前額断面舌運動における検討―
    大久保 真衣, 石田 瞭, 向井 美惠
    2002 年6 巻1 号 p. 27-37
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    咀嚼運動は顎運動のみならず舌,頬,ロ唇などの器官が協調してなされる運動である.本研究では,顎と舌の協調運動の解明を目的に,超音波診断装置より得られる咀嚼時の前額断舌運動動態と,3次元下顎運動動態を同期させる方法の検討を行ない,顎と舌の協調運動のパターン分類,および定量的な動的関連性の解明を試みた.これらによって,以下の知見を得た.

    1.咀嚼時の前額断面舌背描出の際,Mカーソルの傾斜角度を各個人の下顎形態から求める事によって,舌側方部の舌動態解析が解明可能となり,下顎運動との同時解析に有用である事が示唆された.

    2.顎と舌の協調運動動態は,その特徴から4パターンに分類することができた.顎と舌が反対の動きを呈するものを逆転型,連動の動きを呈するものを連動型,逆転型と連動型が交互に出現するものを混合型,顎と舌の運動に関連性がないものをその他とした.

    3.顎と舌の運動パターンの発現頻度を検討したところ,逆転型が占める割合が多かった.また,咀嚼初期では作業側と平衡側のパターン分布比率に有意差が認められた.

    4.習慣性による違いは,嚥下前作業側において習慣性と非習慣性のパターン分布比率に有意差が認められた.嚥下前を検討してみると,習慣性の作業側と非習慣性の平衡側,非習慣性の作業側と習慣性の平衡側が同様な分布を示す傾向が認められた.また,男女差によるパターン分布の違いは,咀嚼初期の作業側において有意差が認められた.

    5.舌の移動距離をもとに距離の大グループと小グループを分けたところ,顎の移動距離においても大グループと小グループ間で差がみられた.顎の垂直的移動距離と舌の移動距離は相関性が見られたが,パターン分類の連動型と混合型は,顎の移動距離に関わらず,舌の移動距離が小さかった.

    以上より,本解析方法を用いて咀嚼時の顎と舌の協調運動動態を解析し,パターン分類を用いる事でその運動動態の特徴を観察,評価する事の可能性が示唆された.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 北池 正
    2002 年6 巻1 号 p. 38-48
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,在宅高齢者の自覚された嚥下機能とそれに影響する要因を明らかにすることを研究目的とした.

    シニアクラブに所属する60歳以上の高齢者2508名に対し,嚥下機能の指標として嚥下障害リスク評価尺度を,嚥下機能に影響する要因として性,年齢,健康状態,生活習慣を自記式によって調査した.有効回答658名(男性276名,女性382名,平均年齢74.9±6.7歳)を分析対象とし,単変量解析及び重回帰分析を行い,以下の結果を得た.

    1.在宅高齢者が自覚した嚥下機能の低下は,[食道期障害][誤嚥]に関する症状が多かったが,[クリアランスの低下]に関する症状は少なかった.

    2.嚥下障害リスク評価尺度の全項目得点に対し単変量解析で有意に差があった要因は,性,年齢,嚥下に影響する疾患,嚥下に影響する薬物,歯の数,咀嚼力,運動する,外出する,外出し会話する,飲酒であった.その10要因を独立変数とし,嚥下障害リスク評価尺度の全項目得点を従属変数として重回帰分析を行った.その結果,有意に関係した要因は,嚥下に影響する疾患,運動する,咀嚼力,嚥下に影響する薬物,年齢の5要因であった.すなわち,嚥下に影響する疾患の既往がある,週1-2回以下の運動,噛みにくい・噛めない,嚥下に影響する薬物を内服する,年齢が高い,という順に嚥下機能に強く影響していた.

    3.運動習慣と咀嚼力が,疾患,薬物の要因に加えて在宅高齢者の嚥下機能に強く影響していた.このことは,加齢に伴う嚥下機能の低下を軽い運動の継続と咀嚼力の維持によって予防することの可能性を示唆した.

研究報告
  • 舘村 卓, 佐々生 康宏, 野原 幹司, 和田 健
    2002 年6 巻1 号 p. 49-55
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害の原因の1つとなる口唇閉鎖機能障害に対して用いられるボタン訓練法で使用される訓練具の大きさと機能賦活効果との関係を明らかにするために,訓練具の大きさの違いによる口輪筋活動と引っ張り力の変化について検討した.

    【方法】5名の健常者を対象に,各被験者の口腔模型を基本に実験用ボタン様訓練具として8種類(高径2種,幅径4種)の大きさの異なる口唇牽引プレートを作製した.口腔前庭に挿入した各プレートを上下口唇を接触閉鎖することで保持させた後,プレートを引っ張り試験機によって牽引し,口腔外に脱出する時の引っ張り力と上下口輪筋より導出した口輪筋活動を調べた.

    【結果】口唇プレートの高径および幅径のいずれも,その大きさが増大すると脱出時に示される引っ張り力は大きくなった.しかしながら,プレートの幅径・高径の相違と口輪筋活動の変化の関係は様々であり,口唇プレートの幅径・高径と筋活動の大きさには関係がなかった.

    【結論】ボタン訓練法による口唇閉鎖機能訓練では,口唇プレートの大きさと引っ張り力を指標とした訓練プログラムではなく,口輪筋の収縮方向や筋電図所見にもとづいた訓練プログラムを考慮する必要があることが示唆された.

臨床報告
  • 金井 日菜子, 奥平 奈保子, 峯下 圭子, 星野 由香, 藤谷 理恵, 藤谷 順子, 岡田 和也, 中原 はるか, 田山 二朗
    2002 年6 巻1 号 p. 56-63
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    喉頭気管食道瘻閉鎖術後に喉頭挙上と食道入口部開大の悪化を呈した小脳出血・嚥下障害症例を経験した.

    症例は51歳の男性で,小脳血管芽腫摘出術を受けた同日夜に小脳出血をきたし,意識・呼吸が低下,気管内挿管の後,血腫除去術を受けた.術後,不穏による自己抜管と緊急挿管,気管切開,人工呼吸器離脱,胃瘻造設術を経て,術後3か月からゼリー食による経口摂食訓練が開始された.一時,誤嚥が悪化し摂食訓練が中止されたが,その後訓練が再開され,訓練開始5か月後以降はレトルト粥を1日1回摂食していた.症例は発症後1年2か月で,当院に転院した.転院直後の嚥下造影検査(以下VF検査)で,中等度の口腔期・咽頭期障害が認められ,嚥下中誤嚥が認められた.さらに,食道と気道の交通により食塊が気管に流入していた.耳鼻咽喉科での精査の結果,喉頭気管食道瘻が認められ,瘻孔の閉鎖術が施行された.術後3週間で当院に帰院し,VF検査を行なったところ,瘻孔は完治していたが,喉頭挙上と食道入口部開大は悪化し,造影剤の梨状窩残留が著明であった.約3か月間,間接的訓練と段階的な直接的訓練を行なった結果,軟飯・軟菜の経口摂食が可能になった.VF検査では嚥下反射のタイミング,喉頭挙上,食道入口部開大の改善を認めた.

    症例においては2つの点で従来報告されてきた気管食道瘻例と異なっていた.すなわち,①瘻孔の位置がカフの圧力が加わる部位と一致せず,喉頭下端から気管上端という上位にあった,②瘻孔とその閉鎖術を原因とする嚥下障害だけではなく,小脳出血による先行期・口腔期・咽頭期の障害を基盤として有していた.その結果,経口摂食が自然経過では獲得されず,積極的な摂食・嚥下リハビリテーションを必要とした.

  • ―頸部回旋がリクライニング姿勢時の食塊の咽頭内通過経路に与える影響について―
    太田 喜久夫, 才藤 栄一, 松尾 浩一郎
    2002 年6 巻1 号 p. 64-67
    発行日: 2002/06/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    我々は,嚥下障害患者の直接嚥下訓練に有効な頸部回旋とリクライニング座位の体位が,その組み合わせにより逆に問題を生じる可能性を考えている.今回その具体例を経験したので症例を紹介するとともにその機序について健常者で実験を行い確認したので報告する.

    症例は49歳男性で蘇生後脳症による両側性片麻痺や嚥下障害が著しく,主要栄養管理は胃瘻(PEGによる)で行われていた.ビデオ内視鏡検査の所見でリクライニング座位30度・右頸部回旋45度の姿勢で食塊の嚥下前気管内誤嚥を観察した.

    次に実験として健常者におけるリクライニング座位と頸部回旋の組合せによる食塊の通過経路について嚥下造影検査を用いて検討した.その結果リクライニング座位と頸部回旋の組合せによっては,食塊が回旋側の梨状窩に貯留後上方である反対側の梨状窩へ押し上げられ,嚥下時の喉頭挙上や披裂・声帯閉鎖が不十分な場合には喉頭内侵入や誤嚥が生じる危険が示唆された.

    以上から頸部回旋やリクライニング座位の姿勢の組合せには誤嚥予防の注意を必要とし,嚥下造影やビデオ内視鏡を用いた食塊通過経路や誤嚥の有無についての評価が行われるまでは,リクライニング座位の場合頸部は回旋させずに食塊が均等に左右の梨状窩を通過するように食事介助を行ったほうが安全ではないかと考えられた.

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