日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下時,発音時,blowing時における口蓋帆挙筋活動の相違
―筋電図信号の周波数解析を用いた検討―
野原 幹司舘村 卓藤田 義典尾島 麻希小谷 泰子佐々生 康宏和田 健
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2002 年 6 巻 2 号 p. 151-157

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抄録

目的:鼻咽腔は,発音,blowingといった呼吸性活動時および嚥下時ともに閉鎖されることから,いずれの運動も鼻咽腔閉鎖運動と呼ばれている.そのため臨床では,呼吸性活動時と嚥下時の鼻咽腔閉鎖は区別されないことがある.しかしながら,呼吸性活動時の閉鎖は,肺からの呼気を口腔へ流すために行われる生後の学習の要素が大きく関与する運動である.一方,嚥下時の閉鎖は,食塊が口腔から咽頭へ通過するときに行われる先天的に完成された運動である.したがって,呼吸性活動時と嚥下時では,閉鎖運動という点では共通するものの,異なる調節機構が働くことが推察される.本研究では,口蓋帆挙筋を対象に,発音時,blowing時および嚥下時の鼻咽腔閉鎖の調節機構の相違を,筋電図のmean power frequency(MPF) を指標に検討した.方法:健常成人4名を対象に,/pu/発音時,最強blowing時,唾液嚥下時の口蓋帆挙筋筋電図を採取した.得られた筋電図信号を周波数解析することによりMPFを求め,各被験活動のMPFを比較した.結果:発音時とblowing時のMPFは有意差が無く,互いに近似した周波数帯に分布することが示された.一方,嚥下時のMPFは,発音時,blowing時と比べて有意に大きく,高い周波数帯に分布することが示された(t検定:p<0.001).MPFは,筋収縮に参加する運動単位の組成を反映するとされる.このことから,呼吸性の活動である発音時とblowing時の口蓋帆挙筋の収縮には,同じ組成の運動単位が動員されるものの,嚥下時には,呼吸性活動と異なる運動単位が関与する可能性が示された.考察:本研究の結果,嚥下時には呼吸性活動と異なる口蓋帆挙筋の調節機構が働く可能性が示唆された.このことから,鼻咽腔閉鎖機能の評価および閉鎖不全の治療には,呼吸性活動と嚥下を独立させて考える必要性が示唆された.

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© 2002 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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