日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
臨床報告
口腔腫瘍術後の摂食・嚥下障害に対し舌接触補助床(PAP)を適応した5症例
有岡 享子石田 瞭森 貴幸北 ふみ梶原 京子江草 正彦林 邦夫
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2005 年 9 巻 1 号 p. 76-82

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抄録

【目的】下顎・舌癌術後患者の嚥下機能回復を目的として,当院で作製した舌接触補助床 (Palatal Augmentation Prosthesis;PAP) の経過を調査することにより,PAP適応に関して検討することを目的とした.【対象と方法】岡山大学口腔外科にて下顎・舌癌による舌半側切除~亜全摘を施行後,H15年6月からH16年4月まで(11ヶ月間)にPAPが適用となった患者5名(①‐⑤,全て男性,手術時年齢25‐63,平均年齢50.6歳)を対象とした.PAP装着前後の嚥下機能評価は舌可動性診査,改定水飲みテスト,食物テストのほか,X線嚥下造影検査,超音波診断装置を用いて行った.PAP適応の基準は主に舌の上方への可動性,口腔期・咽頭期の障害であった.パラトグラムを用いて作製したPAPを装着後の経過を診療録から調査した.【結果】症例①,②,⑤では舌は上方,前方ともにほとんど動かない状態で評価点は低かった.症例④は評価点は高かったがこれは皮弁の大きさにも関係していると思われる.PAP装着前診査の結果,すべての症例で準備期/口腔期障害,症例③以外では咽頭期にも障害を生じていた.術後PAP装着までに,症例①は8642日,症例②は2107日経過していた。症例③‐⑤は38~56日であった.PAP装着により,症例③~⑤では食塊移送等準備期/口腔期の摂食・嚥下機能の改善を認め,特に症例④,⑤では咽頭期障害の改善を認めた.症例①,②では若干の準備期/口腔期の改善はあったが,嚥下時の違和感があり,結果的にPAP不適応であった.適応であった症例③~⑤のうち,症例③は嚥下機能が回復したためPAPは不必要となり,④は調整しつつ,⑤はそのままの形態で継続使用している.【考察】1)術後早期にPAP適用可能であった3症例では,舌切除範囲は異なっていたがPAP適応であり,術後長期経過した場合は,切除範囲が大きい症例でPAP不適応となる傾向を認めた.術後可能な限り早期にPAPを適応することの有効性が示唆された.2)臨床的にPAP適用の判断基準としていた舌の可動性の診査は,一部有効であったが,さらに詳細な判断基準の確立が必要であると考えられた.

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© 2005 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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