日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
9 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
ヒストリカルレビュー
原著
  • 野原 幹司, 小谷 泰子, 佐々生 康宏, 尾島 麻希, 舘村 卓, 和田 健
    2005 年 9 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    【目的】持続的な経鼻胃経管栄養法は誤嚥性肺炎を増加させることが知られている.その肺炎の原因は,チューブを挿入していることにより胃食道逆流が生じ,逆流物を誤嚥することによる可能性が報告されている.しかしながら,肺炎を生じた全症例で胃食道逆流が認められるわけではない.このことは,チューブを留置された症例の誤嚥性肺炎には逆流以外の原因も関与している可能性を示すものである.チューブは常時嚥下誘発部位を刺激することになるため,反射性の嚥下活動に影響が生じ,唾液などの誤嚥を惹起する可能性が考えられる.本研究では,チューブの留置が反射性の嚥下活動に与える影響を明らかにするために,チューブ挿入時における反射性嚥下の頻度の検討を行った.

    【対象と方法】5人の健常成人女性を対象とした.被験者には安静を指示し,15分間を経過した後に8フレンチの経管栄養用チューブを右鼻孔から胃まで挿入した.挿入前の15分間と挿入後の60分間の反射性の嚥下活動が認められた回数を計測した.嚥下回数は舌骨上筋群の筋活動と喉頭挙上運動の視認に基づいて計測した.

    【結果】チューブ挿入直後の嚥下頻度(19-29回/5分)は,挿入前(8-18回/5分)と比較し,有意に増加した (Mann-Whitney検定,p<0.01).その後の嚥下頻度は挿入直後をピークに徐々に減少し,挿入40分後には5分間あたり1-15回となり,挿入前よりも有意に減少した (p<0.05).

    【結論】本研究の結果から,経管栄養チューブの留置は反射性の嚥下活動に影響を与えることが示された.

  • 津賀 一弘, 島田 瑞穂, 黒田 留美子, 林 亮, 吉川 峰加, 佐藤 恭子, 斎藤 慎恵, 吉田 光由, 前田 祐子, 木田 修, 赤川 ...
    2005 年 9 巻 1 号 p. 56-61
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者ソフト食は,高齢者においておいしく安全に摂食できるように開発された食事形態である.本研究では,高齢者ソフト食を中心に,要介護高齢者の食事形態と介護に関連すると考えられる全身的な状況ならびに口腔内状況・機能との関係について検討し,安全かつ摂食・嚥下機能維持のために有効な食事形態を客観的な口腔機能評価から決定する可能性を明らかにしょうとした.

    【方法】被験者は介護老人保健施設ひむか苑入居者のうち,調査の目的と方法の説明を受けて本人と家族の賛同が得られた,65歳以上の61名(男性17名,女性44名)とした.調査項目はADL,意識レベル,長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R),残存歯ならびに義歯の使用状況,試作簡易舌圧測定装置で測定した最大舌圧および食事形態とした.統計学的解析にはχ2検定ならびに一元配置分散分析を用いた.

    【結果】食事形態はソフト食と副食の一部に普通食を食している群 (ソフト+常食群) が50名,すべてソフト食を食している群 (ソフト群) が11名であった.食事形態と年齢,性別,意識レベルおよび口腔内状態との問には有意な関係を認めなかったが,食事形態とADL,HDS-Rならびに最大舌圧の間には有意な関連性を認めた (p<0.05).また,最大舌圧とHDS-Rの問には相関関係がみられた.このことは,舌圧測定時の指示が通らず最大舌圧が低下したと考えられたので,HDS-R 20点以上の被験者について,食事形態と最大舌圧の関係をみたところ,最大舌圧はソフト+常食群は平均20.9 kPa,ソフト群は6.1 kPaとなり,有意な相違があった (p<0.01).以上より最大舌圧が高齢者の食事形態を決定する要因の1つとして考えられる.

  • ―若年者と高齢者の比較―
    丹治 彩子, 高橋 智子, 大越 ひろ
    2005 年 9 巻 1 号 p. 62-70
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    本研究では,3種のゲル化剤を用いて調製した軟らかなお茶ゼリーについて,飲み込み特性の検討を行った.対象は,デイケアを利用する高齢者および若年者とし,順位法による官能評価を行った.若年者については高齢者の摂食を模した喫食方法を考案し,高齢者の評価と比較・検討を行った.その結果,以下の知見を得た.

    1.3種のゲル化剤を用い,硬さを等しく調製したお茶ゼリーの物性を比較したところ,カラギーナン製剤ゼリーは,寒天ゼリーと同程度の低い付着性,ゼラチンゼリーと同程度の高い凝集性を併せ持つゼリ一であることが示された.

    2.カラギーナン製剤ゼリーは,若年者,高齢者のいずれにおいても,寒天ゼリーよりもまとまりやすくゼラチンゼリーよりも飲み込みやすいという評価を受け,介護食用のゲル化剤として望ましい特性を備えていることが示唆された.

    3.若年者が高齢者を想定し,口中で10秒間保持してから評価を行った場合,高齢者(デイケア利用者)と類似した傾向が得られた.

研究報告
  • 中東 真紀
    2005 年 9 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害患者に対する栄養の補給は最も重要な課題である.しかしそれには高度な技術を要する.しかし,言語聴覚士や専門の看護師の数は少なく,毎日の食事介助の現場では苦慮しているのが現状である.そこで当院では,医師の指示のもと,栄養士の立場から嚥下障害食を基準化(嚥下食基準)し,栄養士や家族でも適用可能な食事介助方法の標準化(食事介助マニュアル)を試みた.

    【方法】嚥下食基準は,患者を摂食・嚥下障害臨床的重症度分類(DSS)に沿って評価し,適用する嚥下食を重度障害(DSS 4:機会誤嚥),中等度障害(DSS 5:口腔問題),軽度障害(DSS 6:軽度問題)の3段階に分けた.いずれも水分補給を重視し,ゼラチンや増粘剤を用いてなるべく「固まり」として食べられることを主眼とした.次に,脳卒中による摂食・嚥下障害患者2例を対象にし,嚥下食基準と食事介助マニュアルを適用して栄養管理を行なった.

    【結果と考察】両者とも経口での食事摂取が可能となった.嚥下障害臨床的重症度がDSS 4~6の患者であって,ムセが誤嚥の指標となる場合には,嚥下食基準と食事介助マニュアルは安全な食事介助に貢献することが示唆された.

臨床報告
  • 有岡 享子, 石田 瞭, 森 貴幸, 北 ふみ, 梶原 京子, 江草 正彦, 林 邦夫
    2005 年 9 巻 1 号 p. 76-82
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    【目的】下顎・舌癌術後患者の嚥下機能回復を目的として,当院で作製した舌接触補助床 (Palatal Augmentation Prosthesis;PAP) の経過を調査することにより,PAP適応に関して検討することを目的とした.【対象と方法】岡山大学口腔外科にて下顎・舌癌による舌半側切除~亜全摘を施行後,H15年6月からH16年4月まで(11ヶ月間)にPAPが適用となった患者5名(①‐⑤,全て男性,手術時年齢25‐63,平均年齢50.6歳)を対象とした.PAP装着前後の嚥下機能評価は舌可動性診査,改定水飲みテスト,食物テストのほか,X線嚥下造影検査,超音波診断装置を用いて行った.PAP適応の基準は主に舌の上方への可動性,口腔期・咽頭期の障害であった.パラトグラムを用いて作製したPAPを装着後の経過を診療録から調査した.【結果】症例①,②,⑤では舌は上方,前方ともにほとんど動かない状態で評価点は低かった.症例④は評価点は高かったがこれは皮弁の大きさにも関係していると思われる.PAP装着前診査の結果,すべての症例で準備期/口腔期障害,症例③以外では咽頭期にも障害を生じていた.術後PAP装着までに,症例①は8642日,症例②は2107日経過していた。症例③‐⑤は38~56日であった.PAP装着により,症例③~⑤では食塊移送等準備期/口腔期の摂食・嚥下機能の改善を認め,特に症例④,⑤では咽頭期障害の改善を認めた.症例①,②では若干の準備期/口腔期の改善はあったが,嚥下時の違和感があり,結果的にPAP不適応であった.適応であった症例③~⑤のうち,症例③は嚥下機能が回復したためPAPは不必要となり,④は調整しつつ,⑤はそのままの形態で継続使用している.【考察】1)術後早期にPAP適用可能であった3症例では,舌切除範囲は異なっていたがPAP適応であり,術後長期経過した場合は,切除範囲が大きい症例でPAP不適応となる傾向を認めた.術後可能な限り早期にPAPを適応することの有効性が示唆された.2)臨床的にPAP適用の判断基準としていた舌の可動性の診査は,一部有効であったが,さらに詳細な判断基準の確立が必要であると考えられた.

臨床ヒント
  • ―施設高齢者による主観的評価―
    小城 明子, 石川 朋宏, 植松 宏
    2005 年 9 巻 1 号 p. 83-85
    発行日: 2005/04/30
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    咀嚼・嚥下機能の低下した高齢者にも安全に食べることができるパンの提供を目的に,改良食パンを試作し,施設高齢者48名(平均年齢80.1±8.6歳)による主観的評価を得た.試作した改良食パンは,パン組織構造の密度が低密度で歯切れを改良した食パンと,高密度でしっとりした食感に仕上げた食パンの2種類であり,一般の食パンを対照として,味,食べやすさ,好みについて3段階法および自由回答による評価を得た.歯切れの改良をコンセプトとした食パンは,味,食べやすさ,好みについては一般の食パンに対する評価と大差ないものの,やわらかさ,皮の歯切れが評価されており,咀嚼力低下者には食べやすい食パンであることが明らかとなった.一方,しっとりとした食感に仕上げた食パン.は,その食感よりも甘味が評価された.

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