日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
最大舌圧のみに拠らない総合的な舌圧測定法
― 食塊形成・移送時の舌運動機能評価法 ―
永長 周一郎向井 美惠
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2005 年 9 巻 2 号 p. 127-138

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抄録

【目的】本研究の目的は,摂食・嚥下における食塊形成・移送時の舌圧を測定し,最大舌圧,舌口蓋接触時間,舌圧積分値,最大舌圧到達時聞等から,客観的で総合的な舌運動機能評価基準を開発することである.

【対象と方法】対象は個性正常咬合を有する24~40歳の健康成人14名(男性8名,女性6名:平均年齢29.1歳)とした.各被検者に口蓋床を2床作製し,1床を測定前に日常使用し,他の1床は圧力センサを3個組み込み測定用とした.組み込み位置は①:口蓋正中部と両側第1大臼歯近心隣接面を結ぶ交点,②:①と③の2等分点,③:左側第1大臼歯口蓋側近心部とした.口蓋に舌を最大力下で押しつけた圧(押しつけ最大舌圧)を測定し,次に唾液(空嚥下),食品A:水5cc,食品B:増粘食品2.5g(水100ccに増粘剤を2g添加),食品C:増粘食品2.5g(水100ccに増粘剤を3g添加)を嚥下させ舌圧を測定した.「嚥下時最大舌圧」,「嚥下時舌口蓋接触時間」,「嚥下時舌圧積分値」,陽圧ピーク時までの到達時間の「最大舌圧到達時間」を解析した.

【結果】舌圧形成で男女差が認められた.押しつけ最大舌圧は,嚥下時最大舌圧と比較して十分な圧力形成がされていた.最大舌圧は部位間の差は顕著でなく,食品粘度が増加しても増加傾向は認められなかった.舌口蓋接触時間は,舌中央部よりも舌側縁部で有意に延長した.食品粘度が増加すると,男性群の積分値が有意に増加し,男女両群とも舌口蓋接触時間,最大舌圧到達時間が有意に延長した.特に最大舌圧到達時間では全ての部位で有意差が認められた.

【考察】食塊形成・移送のためには舌側縁の口蓋への押しつけが不可欠である.食塊形成・移送時の舌運動機能評価は,最大舌圧のみに拠るのではなく,舌口蓋接触時間,舌圧積分値,最大舌圧到達時間を総合的に評価していく必要がある.最大舌圧到達時間は食品粘度を反映するパラメータとして重要である.

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© 2005 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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