2005 年 9 巻 2 号 p. 159-165
【目的】窒息例,誤嚥性肺炎例および嚥下障害徴候例の背景因子,摂食・嚥下能力および転帰としての栄養摂取方法を比較し,臨床的特長を検討した.
【対象と方法】平成12年1月~16年4月にリハ科へ摂食・嚥下評価依頼のあった患者のうち,急性中枢神経系器質疾患に伴う嚥下障害例を除いた55例を対象とし,明らかな窒息または誤嚥のエピソードに引き続く急性呼吸不全で救急入院した窒息群 (13例),窒息または大量誤嚥のエピソードなしに急性呼吸不全で入院となり誤嚥性肺炎と診断された肺炎群 (27例),嚥下障害徴候に対する摂食・嚥下評価依頼の徴候群 (15例) の3群に分け,後方視的に比較検討した.
【結果】平均年齢は78才で3群間に差はなかったが,男性が肺炎群と徴候群でそれぞれ89%,93%と高率であった.痴呆症状を有する割合は窒息群69%,肺炎群41%,徴候群40%であった.咽頭絞扼反射消失は窒息群62%,肺炎群67%に対し,徴候群では33%と有意に低率であった.ビデオ嚥下造影施行46例において何らかの誤嚥所見を呈した割合は,窒息群44%,肺炎群84%,徴候群67%と,肺炎群で高い傾向にあり,誤嚥または喉頭侵入時の咳嗽反射が明らかであった割合は,窒息群17%,肺炎群18%に対し徴候群では89%と有意に高く,徴候群には「むせのない誤嚥」がみられなかった.三食経口摂取を獲得した割合は,窒息群46%,肺炎群26%に対し,徴候群60%であった.窒息群と肺炎群において,悪化前に嚥下障害徴候を呈していたものが68%を占めていた.
【考察】窒息または誤嚥性肺炎による急性呼吸不全で救急入院した患者に比較して,嚥下障害徴候段階の患者では気道防御機構としての咳嗽反射・咽頭絞扼反射が保たれていると推察でき,この段階での的確な評価と対応が経口摂取を安全により長く継続するために重要と思われる.