介護食に適した食品の物性と嗜好性を明らかにする目的で,高齢者を対象として官能検査を行い,身体状況,物性との関係を検討した.
対象者は,社会福祉施設に入居している65歳以上の高齢者139名(男性25名,女性114名,平均年齢83歳)および同施設の職員34名(男性14名,女性20名,平均年齢42歳)である.粘度の異なる3種のすり下ろし状りんごを調製した.試料Aは増粘剤無添加試料で,試料BはAに市販増粘剤を添加したもの,試料CはAにりんごジュースと市販増粘剤添加試料を添加したものとした.高齢者を対象に順位法による官能検査を行った.同時に嚥下機能の評価として発声テスト・RSST・MWSTなどを行い,要介護度・ADL・歯の状況について質問した.試料の物性はB型回転粘度計およびテクスチャーアナライザーで測定した.
その結果,試料のみかけの粘度はB>A>Cで,ジュースに増粘剤を添加したC試料は最も小さかった.テクスチャー特性の応力および付着エネルギーは,B>A>Cであった.圧縮速度を変化させ,応力と付着エネルギーの関係を見ると,応力と付着エネルギー間に高い正の相関が認められた.官能検査の結果,3試料中で最もやわらかく粘度が小さい試料Cが,もっとも飲み込みやすいと評価された.構音テストと水のみテストと食事介助を指標に嚥下障害群と健常者群を抽出し,飲み込みやすさと嗜好性について検討した結果,健常者の場合は必ずしも「総合的な好ましさ」と飲み込みやすさは一致しなかった.一方,障害群では飲み込みやすい試料Cをもっとも好ましいと評価し,嚥下力により好まれる食品の物性が異なることが明らかになった.