日本災害復興学会論文集
Online ISSN : 2435-4147
事例研究
カンタベリー地震の事例に見るニュージーランドの地震保険と被災地住宅の現状分析
大谷 順子
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2014 年 6 巻 p. 9-21

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抄録

ニュージーランドのクライストチャーチ近郊にあるリトルトン付近を震源として2011 年2月22 日に発生し たカンタベリー地震では186 人が犠牲となり、そのうち28 人は日本人留学生であった。犠牲者の数だけを比 べると、他の大地震とは比較にならないほど小規模にも見える。しかし、地域のシンボルであるクライストチ ャーチ大聖堂の倒壊、市の中心部全域に及ぶ壊滅的な被害による地域経済活動への打撃、続く余震、液状化による住宅被害と深刻な状況であり、2 年以上が経過した2013 年8 月現在も市民は先の見えない不安を抱え、地域全体が疲弊した状態のままである。震災の犠牲者数だけでは測れない人的被害の影響があるといえる。本稿では、ニュージーランド国クライストチャーチの被災地における復興支援において、他国の被災地と比べて特有といえる「保険」の問題と、「仮設住宅」の不在の2 点について取り上げる。再保険会社のデータから見ると、保険による損失補償額については、カンタベリー地震は世界の災害の中でも何万人もの犠牲者を出した他の地震を上回る。これは災害保険カバー率が9 割以上と極めて高いことに由来する。その一方、保険に関連する交渉と手続きの待ち時間が続き、住宅の再建はむしろ遅れていることが明らかになった。また、日本などの被災地で建設されている仮設住宅というものがほとんど存在しない。仮設住宅の提供は極めて限定的であるのだが、被災者への手厚い公的支援が試みられていることがカンタベリー地震の復興の特徴と言える。

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