日本透析医学会雑誌
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原著
潜在異常値除外法を用いた血液透析患者固有の分布範囲設定の試みとその臨床的意義
五十嵐 すみ子市原 清志瀧谷 雅俊倉田 満平良 隆保千葉 哲男酒井 糾梅村 敏日台 英雄兵藤 透
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2007 年 40 巻 3 号 p. 261-269

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抄録

血液透析患者は, 管理不全で電解質異常や循環不全をおこしやすく, また免疫能の低下による感染症や癌の合併率が高い. このためそれら合併症の早期発見が極めて重要となる. しかし, 定期透析で安定した状態にある血液透析患者の標準的な分布範囲を設定しておかないと, 各合併症の出現を早期に発見できない. そこで今回, 潜在異常値除外法を用いて, 定期透析患者の中から, 明瞭に偏った値をもつ症例を除外し, 臨床化学検査25項目, 末梢血検査14項目に対する疾患固有の標準的分布範囲の設定を試みた. 対象は, われわれの検査室ですべてを検査している16透析施設の計1,392名の血液透析患者である. 全項目を一つの検査室で測定して得たデータセットを用いて, 同法で異常低値, 異常高値を得た検査値の患者を除外した後, 使える個体を選び, べき乗変換でデータを正規化しパラメトリック法で95%信頼区間に相当する分布範囲の設定を行った. その結果, 透析前の検査値は腎不全患者特有の多様な変化を認めたが, その基準範囲幅は, クレアチニン, 尿素窒素, 無機リン, マグネシウム, アミラーゼ, 好酸球で, 健常者の2倍以上, 尿酸, カリウム, 平均赤血球容積, 網状赤血球数で1.5倍前後であった. 他の検査項目では, 健常者の基準範囲とほぼ同等かそれ以下で測定値の個体差は比較的少ないと考えられた. なお, 特異な所見として, 総ビリルビン, AST, ALT, ChEの分布範囲は, 健常者よりも明瞭に低値側へ偏位していた. ナトリウム, カリウム, カルシウム, 無機リン, クレアチニン, 尿酸, 尿素窒素については透析後の分布範囲も設定したが, 透析前値よりも明瞭に狭く透析管理上の目安になると考えられる. 今回求めた安定状態にある血液透析患者固有の分布範囲は, 合併症の早期発見, QOL (quality of life) の維持, 管理指導に役立つと考えられる.

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© 2007 一般社団法人 日本透析医学会
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