抄録
症例は72歳,女性.70歳の時に紫斑病性腎炎による慢性腎不全のため血液透析を開始し,同時期に骨髄異形成症候群(MDS)と診断された.2か月前より発熱を認め,近医で抗菌薬治療を継続したが改善せず,1週間前より意識障害が出現したため当院に転院になった.髄液検査で初圧40 cmH2Oと亢進,墨汁染色で酵母様菌体を認め,髄液・血液の抗原・培養陽性でクリプトコッカス髄膜脳炎と診断した.抗真菌薬(L-AMB+5-FC)を投与し,髄液ドレナージによる除圧を適宜行った.各種培養は陰性化し炎症反応も改善,クリプトコッカス髄膜脳炎は改善傾向であったが,意識障害は不可逆的であった.その後全身状態が悪化し死亡した.透析患者は糖尿病合併者や高齢者が増加していることで感染症発症リスクが増大している.細胞性免疫や好中球機能に異常を認め,真菌感染症の割合も高い.中でもクリプトコッカス感染症は初期には非特異的な症状のみで緩徐な発症様式であるため見逃されやすく,進行すると予後は悪い.血液・髄液の抗原検査により診断可能であり,血液透析患者の不明熱の鑑別に本疾患をあげて,早期診断をすることが重要と考えられる.