抄録
肝不全治療においては新鮮凍結血漿 (FFP) を置換液とした血漿交換 (PE) が臨床応用されている. しかし肝不全の病態としてalkalosisや高Na血症が存在し, これらがFFPに含有されるクエン酸やNaにより増悪する可能性も無視しえない. そこでPEによる酸塩基平衡異常や高Na血症への影響を検討し, さらにこの病態や副作用に対して処方透析液を用いた血液透析 (HD) による補正を試みた. 対象は1982年8月より1985年4月の間に当科においてFFP 40単位 (3,200ml) を置換液としてPEを施行した29症例で, 原疾患はウイルス性肝炎に続発した急性肝不全14例, 薬物性肝炎による急性肝不全3例, その他の原因による急性肝不全3例, および術後肝障害・高ビリルビン血症9例である. 検査結果はmean±SEにて示す. PE前値 (n=44) ではpH 7.47±0.01, HCO3- (mEq/l) 27.4±0.7, BE 4.31±0.55, 後値 (n=44) では同様に7.50±0.01, 28.8±0.8, 6.10±0.50, さらにPE施行1日後 (n=28) では7.50±0.02, 29.8±0.9, 5.51±1.09であった. またpCO2, pO2は全経過を通しての変化はなかった. 血液Na (mEq/l) はPE前値137.8±0.9より後値140.3±0.8 (n=87) へと変化した. すなわち肝不全に対するPEはalkalosisや高Na血症を増悪せしめる可能性が示唆された. そこでPE後, 高度なalkalosisや高Na血症を呈した5症例7回に対してHDによる補正を試みた. PE後値でpHは7.409より7.580に分布し, HCO3-は25.7より31.8, BEは3.8より9.6に分布していたが, HDにより, pHは7.409より7.495, HCO3-は23.4より29.1, BEは1.3より4.5に分布し, 補正されていた. また血液Na値もPE後値では153より162に分布したが, HD後値では140より150の値に低下した.
以上よりFFPを置換液としたPEによる副作用としてalkalosisおよび高Na血症の増悪に注目する必要があり, さらにかかる病態・副作用に対してPE施行後のHDは有用であるとの結論を得た.