抄録
われわれが, 昭和62年5月までに東京女子医科大学腎臓病総合医療センターで横手根靱帯開放術を施行した患者は165名, 187手におよぶ. 患者の男女比は93:72, 年齢35-78歳, 平均58.3歳, 透析歴は2年6ヵ月-17年8ヵ月, 平均10年3ヵ月であった. 一方, 長期透析療法施行中の患者の中には, 手根管症候群のみならず, 体内の種々の臓器にアミロイド沈着が生じ障害をきたしている症例が増加している. われわれの施設においても手根管症候群のほかに臀部および腰部にアミロイドが沈着し, 臀部のアミロイド腫瘤を切除した症例がある. 今回われわれは, この組織とともに横手根靱帯開放術を施行した187手の靱帯, 滑膜, 腱, 皮膚などの病理組織標本と, さらに透析療法継続中に死亡して病理解剖を行った29症例の肝臓, 腎臓, 心筋, 直腸粘膜の各組織に対してコンゴーレッド染色, マッソン染色およびβ2-microglobulin (β2-MG) 染色 (酵素抗体法) を施行した.
横手根靱帯開放術でえられた滑膜, 横手根靱帯, 手掌筋腱, 皮膚の各組織でコンゴーレッド染色陽性, β2-MG染色陽性, 細動脈硬化, 脂肪膜様変性, 結合織の硝子化の所見が多くみられた. また透析歴16年の男性よりえられた坐骨結節部腫瘤も同様の所見を示し, 同患者のS状結腸穿孔部の病理組織標本でもβ2-MG染色陽性であった. 透析療法継続中に死亡した29例のうち21例は急性腎不全, 8例は慢性腎不全であった. 慢性腎不全群では透析歴11年の女性の腎において脂肪膜様変性とコンゴーレッド染色およびβ2-MG染色陽性所見がみられ, また透析歴10年の男性の心筋と直腸においてもコンゴーレッド染色とβ2-MG染色が陽性であった. 透析アミロイドーシスの患者の平均血中β2-MG濃度と透析アミロイドーシスを合併しない患者の値との間に有意差はなく病理組織所見の多様性からさらに多くの要因が発症に関与しているものと考えられる.