抄録
高齢透析患者はしばしば死にたいなどのいわゆる “自殺願望” を訴える. 今回この“自殺願望”の要因を検討し, その軽減を図ったので報告する. 導入1年以上経過の血液透析患者30名を対象とした. 65歳以上の高齢者は10名を占め, その内5名が透析に対する適応能が低い, 生きがいや生活目標がない, 生産性が低いという活動不能感があり, さらに自殺願望を訴えるなどの消極的生活状態にあった. 身体的検討には透析スコア, 合併症数, シャント作製回数, 長谷川式痴呆度を, 心理的検討にはMAS顕在性不安検査, エゴグラムを用いた. そのほか生活適応アンケート調査, 県民意識調査を行ない, 消極的生活状態に陥らせる社会的要因を検討した. その結果, 65歳以上の高齢透析患者の特徴は合併症数, シャント作製回数, 痴呆度の悪化で, エゴグラムでは自己抑制型を示した. また当院高齢者は富山県民気質が強く, 生産性や労働力を重んじ, 自己主張を極端に抑制し, 自己を生産性に携われない人生の落後者と評価していた. 更に自殺願望を有する者は不安傾向が強く, 5名中3名は境界域の痴呆傾向を示した. このような自殺願望者に対し特異な県民気質を配慮した働きかけ, すなわち自己の信仰している宗教の尊重. 家事への参加, 年金は個人の収入という意識づけなどを行なった. 約10ヵ月後には5名中, 透析スコアで4名, 不安度で4名, 更に痴呆度で全例の改善がみられた. これらには, 孤独感の軽減, 生への欲求も伴っていた. 以上の如く, 自殺願望という極めて消極的生活状態にある高齢透析患者に対して, その地域に特異的な気質や生活習慣などを配慮した働きかけは, 透析管理及び痴呆の改善, 老人としての生きがいの発見, 不安感の軽減などに有用と思われた.