抄録
症例は42歳, 女性. 慢性糸球体腎炎よりの末期腎不全にて1987年8月慢性血液透析へ導入された. 1993年6月の胸部X線写真にて大動脈起始部に小膨隆が出現し, 同時期に胸背部痛を認めたが自然に消失した. 8月同部の膨隆がφ7cm大の半球状陰影に拡大したため, 解離性大動脈瘤を疑われて8月6日当科へ入院した. 胸部CTで右前縦隔にlow density mass, 胸部MRIでT1, T2強調像ともに高信号を呈するmassを認めた. 心外膜外に位置しており層状構造がないことより前縦隔腫瘍と診断し, 8月25日前縦隔腫瘍摘出術を施行した. 組織学的には胸腺嚢腫で悪性所見はみられなかった. 9月15日退院し現在某院にて外来維持透析中である. 慢性血液透析患者に胸腺嚢腫を合併した症例の報告はみられず, また急速に拡大し, 胸部解離性大動脈瘤が疑われた臨床経過が興味ある症例と思われたため報告する.