抄録
死体腎移植後にmanidipine hydrochloride (manidipine) にて乳び腹水をきたしたCAPD患者の1例を報告する.
症例は36歳, 男性. 死体腎移植レシピエントで術後1日目より高血圧のためmanidipine 20mg分2の投与を開始した. 約96時間後にCAPD排液の混濁, 微熱, 軽度の腹痛がみられ, 身体所見では左下腹部 (移植腎部付近) 圧痛があり, 腹膜炎が強く疑われた. CAPD排液の検査では性状は黄色混濁, 無臭. 沈渣は細胞数正常. 培養では細菌および真菌とも陰性. 生化学分析で脂質成分の増加 (特に, トリグリセライド), などが見られた. 以上より乳び腹水と診断した. 原因はmanidipineによる強力な末梢血管拡張作用によるリンパ管の拡張が考えられ, manidipineの投与を中止したところ速やかに消失した. また, 混濁時に除水量の著しい増加も見られ, manidipineによる限外濾過能の改善によるものと思われた.
CAPD患者において乳び腹水による身体的影響はほとんどないが, 本例のように腎移植患者では免疫能低下があり, 乳び腹水にもしも腹膜炎が合併した時, 診断が遅れ重症になることも考えられるため, なるべくmanidipineの投与を中止したほうがよいと思われる.