抄録
長期透析患者が増加するにつれて, 腎性骨異栄養症, 透析アミロイドーシスは, QOLを左右する重大な問題である. 今回我々は, 慢性透析患者において大腿骨人工骨頭置換術 (FHPR) あるいは人工股関節全置換術 (THR) を施行した8症例について検討した.
1988年8月より1996年12月までに6例・7股関節に対して大腿骨人工骨頭置換術を, 2例・3股関節に対して人工股関節全置換術を施行した. 術前診断は, 大腿骨頸部骨折7件, 大腿骨頭壊死1件, 変形性股関節症2件であった. 男性3例, 女性5例で, 平均年齢は67.4歳, 平均透析期間は110.6か月, 基礎疾患は慢性糸球体腎炎6例, 糖尿病性腎症1例, 多発性嚢胞腎1例であった. 平均follow up期間は38.1か月であった.
手術時間は平均108.7分, 出血量, 輸血量はそれぞれ平均710.4ml, 580mlであった. 手術は, 全麻または腰麻下に施行し, 術中, 術後に1例で脱臼を生じたが, 重篤な合併症は認めなかった. 1例の両側に術後股関節の脱臼を生じたが, 感染は全例認めなかった. 病理組織学的に検討できたのは7件であり, 1件 (透析歴48か月) ではアミロイド, アルミニウム, 鉄の沈着は認めなかったが, 他の6件では, すべてアミロイド, アルミニウム, 鉄の沈着を認め, 股関節病変に大きな影響を及ぼしていると考えられた.
以上の結果より, 慢性透析患者においては, 手術, 特に人工関節手術は慎重に行うべきであると考えられた. また透析患者においては, 腎性骨異栄養症, 透析アミロイドーシス等の合併症を予防するためには, 透析の長期化に伴う骨へのアミロイド, アルミニウム, 鉄沈着を防ぐことが重要であると考えられた.