抄録
透析患者に収縮性心外膜炎を発症した1例を経験した. 症例は56歳, 男性. 32歳時より慢性糸球体腎炎由来の慢性腎不全のため透析中であった. 今回, 食思不振, 嘔気が出現, 腹水, 下肢浮腫も認めたため, 精査加療目的にて当院入院となった. 胸部X線にて心外膜の石灰化があり, 心臓カテーテル検査にて右室圧曲線でdip and plateauパターンを認めたため, 収縮性心外膜炎と診断した. 目標体重を下げていく過程でも心胸郭比 (CTR) 46%と変化を認めなかったが, 腹水, 下肢浮腫は改善傾向にあった. 目標体重を下げるも心機能の改善を認めず, 透析中の血圧低下も改善されなかった. 原因は収縮性心外膜炎と考え, 心外膜剥離術を施行した. 術中所見でも, 心外膜石灰化を認め, そのために心室拡張障害が生じ, 心拍出量低下, 血圧低下をきたしたと考えられた. 病理組織所見では心外膜の強い石灰化と線維性肥厚, 石灰化を貪食しようとする多核球の浸潤を認めた. 乾酪壊死の所見は認めず結核性は否定的であり, 特発性収縮性心外膜炎と考えられた. 術後は, 血圧, CTR, 左室駆出率, 心拍出量ともに増加し, 経過良好であった. 透析患者に収縮性心外膜炎を合併すると, 心室拡張障害により高頻度に透析中の血圧低下を認める. 安定した透析を行うためにも早期に心外膜剥離術を施行し心機能の改善を図る必要があると考えられた.