抄録
院外心肺停止(CPA)症例の救命が困難である一因として難治性の頻拍性心室不整脈の存在があげられる.日本においては,1999年に本邦発のIII群抗不整脈薬であるニフェカラントが発売されるまで,CPAに対してリドカインを使用することが慣例であった.当時,諸外国ではアミオダロン静注薬の使用が一般的であったが,我が国では使用許可がなかったため,ニフェカラントはアミオダロンに代わるIII群抗不整脈薬として大きな役割を担っていくこととなった.その後2007年6月,我が国でもアミオダロン静注薬の使用が認可された.本稿では,これまでの当院における自験例と基礎的研究を中心に,(1)リドカインとニフェカラント併用の問題点,(2)ニフェカラント抵抗性心室細動(VF)への対処法,(3)アミオダロンの除細動効果,について概説する.われわれは院外CPA患者におけるリドカイン抵抗性の心室頻拍(VT)/VFに,日本で初めてニフェカラントを使用した.CPA患者におけるニフェカラント追加投与による除細動効果は院内症例で89%,院外症例で75%と高く,リドカイン使用群に比較して有意に優れていることを報告した.しかしながら,院外CPA患者におけるおよそ25%のVT/VF患者はニフェカラント抵抗性であり,純粋なIKr遮断薬単独での治療限界を知った.そこで心臓選択的な交感神経抑制を目的とした左星状神経節ブロックとニフェカラントを併用したところ除細動効果が改善し,難治性心室性不整脈に対する新たな治療法となる可能性が示された.その後アミオダロン静注薬の発売をうけ,電気的除細動抵抗性のVT/VFを対象にニフェカラントとの前向き比較試験を行った.その結果,両群における除細動効率,入院生存率,生存退院率について有意差はなかった.しかしニフェカラント群においては除細動不可例が散見され,一方アミオダロン群においては心静止例が多く認められたことから,薬理作用の相異が明らかとなった.