抄録
症例は41歳,男性.生後,修正大血管転位(C-TGA),心室中隔欠損(VSD),右胸心の指摘を受け,2歳時にVSD閉鎖術,33歳時に三尖弁置換術(TVR)が施行された.以後,心機能低下はあるものの心不全の顕在化なく経過していたが,2008年10月,突然心肺停止となった.搬送先で蘇生されたが,体心室(解剖学的右室)の収縮能低下を伴う心不全管理に難渋し,カテコラミン依存状態となった.当院転院後,非薬物療法の検討が行われたが,悪液質,MRSA保菌や胃瘻の存在もあり,補助人工心臓・心臓移植が躊躇された.他方,心室内伝導障害と体心室の収縮非同期を認めたため心室再同期療法(CRT)を先行導入したところ,著効を示しカテコラミンからも離脱しえた.成人期に達したC-TGAにおける体心室の適応破綻はしばしば問題となるが,本症例は補助循環も考慮されるほどの最重症心不全に対してもCRTが著効する場合があることを示唆した貴重な症例と考える.