2016 年 36 巻 4 号 p. 334-343
心房細動により生じる自律神経リモデリングは,実験動物およびヒトにおいて報告されているが,その報告は電気的リモデリングや器質的リモデリングに比べると圧倒的に少ない.そこで,心臓外科手術において摘出される左心耳標本を用いて,交感•副交感神経の分布を描写し,その密度に関与する臨床指標の同定とその基礎的なメカニズムについて考察した.自律神経密度は患者個体により大きく異なっており,臨床指標との関連を見出しにくいものの,心房線維化の進行した症例では副交感神経のdenervationが認められやすかった.一方,交感神経および副交感神経の密度は,心房に含まれる神経栄養因子の蛋白発現に依存し,その発現によって個体による多様性が生じていると考えられた.副交感神経の神経栄養因子であるBDNFは幼弱な筋線維芽細胞に発現する一方で,交感神経の神経栄養因子であるNGF,LIFはマクロファージに発現していた.このような観察は,末梢神経一般に見られるWallerian degenerationに酷似しており,病態に伴う神経障害とその再生という概念が適応できるものと考えられる.